セヤナーを虐めたりいじめたりイジめたりしたい

自室の一角、ワンルームの一室に夕刻の赤い赤い斜陽が入り込む。
電気は付けず、淹れてから間もない湯気ののぼる珈琲、マグカップに降り注ぐ赤とインスタント特有の泥色のコントラストを眺めながら、思考をくゆらす。

「カヒュー...カヒュ...ゴポッ、カヒュー」
遅効性セヤコロリというものがある。
毒性を保持したままを致死に至るまでの時間を極限まで遅らせたセヤコロリを指すが、その手法は様々である。

「カヒュー...セヤ、カヒュー...コロ、コプッ」
まず、セヤコロリの名を冠しながらながらセヤナーを殺傷する毒性を持たず、セヤナーの体組織を細胞レベルで溶解させることで流動性と柔軟性を奪うものである。
この薬品は動かすだけでセヤナーの体組織そのものをミキサーにかけるがごとくめちゃくちゃにできる為にセヤコロリと銘打たれている。

「カヒュー...コロ、ボゴボ...カヒュッカヒュー」
もうひとつは、従来通りの効能でありながらセヤナーの延命を促させるものである。
これは、セヤナーの動作を阻害することなく体内にゼオライトと同等の酸素結合を促す。
元来より酸素を利用し塩を生成しているセヤナーにとって体内の酸素を奪われるのは死に等しい苦痛となる。
呼吸器を超稼働させるたびにチリチリと細胞が焼けて呼吸を加速させ、粘膜を焦がし内外の運動差によって体内にいくつもの水腫やびらんを形成し、終いには細胞が疲労で破綻しショックにより死に至るのである。

「カヒュー...カヒュ」
この毒性を眺めたとき、閃きが脳裏を襲った。
これらを調合することで、運動差を融解によって無効にし、生命活動に必要な呼吸によって生まれる身体のひずみを痛みとして生涯受け続けるセヤナーを産み出せるのではないか、と。

「カヒュー、シニタ...ブクッ...コロシ、カヒュー」
懐古から離れて視線を夕焼け空が映える窓辺より少し離れた机の上に置かれた1リットルは入るであろう大きなフラスコに移す。
そこには、薄いピンク色の「なにか」がある。
どれが従来の細胞だったかさえわかるはずもない、呼吸という致命傷がすべての細胞をない交ぜにしてしまっている。
呼吸管だけがまるで波間に浮かぶ枯れ葉のように自身の水面に現れては消えを繰り返す。
呼吸の蠕動と自身が放つ熱量によって破壊と治癒を繰り返すその「なにか」は、実験開始からここ三日までは飢えを訴えたり自身の治療をせがんだり大変挑発的であったものの日をおううちに静かになり、最近は蚊の鳴くような声でなにかを呟くのみである。

「ゴボプ、カヒュー...カヒュー」
この「なにか」も、今となっては予後観察というかたちに止めており無駄でしかない。
そも、たまの呼吸と発熱程度であれだけ要求した栄養をすべて使いきるはずもなく、自身が発する熱量によって健康体を自分で維持しながら生存を続けている「それ」にとって自分の願望を叶えるためにはとてつもない時間を要することになるだろう。
フラスコを見つめながら思案が過ぎるあまり温くなった珈琲をクイッと一気にあおり、呟く。



この実験は「成功」である。

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