セヤナーを虐めたりいじめたりイジめたりしたい

セヤナー には天敵が多い。
爪や牙などの戦うための武器も無ければ、鱗や甲羅のように守るための盾もない。
逃げるための足も無ければ、たとえ自分が食べられても仲間を守れる毒すらも持っていない。

そんなスペックなので当然、捕食者に見つかれば助かる術はない。
自然界で生きていくにはあまりにも軟弱なその姿は、さながら歩く食料だ。
事実、多くの生物にとってセヤナーは都合の良い食料だった。

生きるための手段を何1つ持たないセヤナーだが、生きるための能力には長けている。
その1つが基礎代謝の良さだ。
セヤナーは燃費が良い。動いて無駄に体力を消費しなければ水だけで1ヶ月は生存できる。
そして、セヤナーの柔らかい体は隠れることに適している。
割れた石のヒビや木の根の隙間など、時間は掛かるがかなり狭い空間にも染み込むように入ることが出来る。

自然は合理的だ。
生存競争に有効活用できるものは、他の生物の性質ですらも利用するものが現れる。
例えばサンゴの毒を利用するクマノミのように。例えば蛇に擬態するイモムシのように。
そしてここに、セヤナーに食料以外の価値を見出した生物がいた。

「ヤッ!」
その子セヤナーは、自分の体に何かが突然くっ付いたことを感じた。
何事かと思うも、一頭身であるセヤナーには自分の後頭部を見ることが出来ない。
「ヤー? ナニー?」
なんやなんやと慌てるも、やはりどうしようもない。
結局、その場でオロオロすることしかできなかった。

……直後、後頭部に凄まじい痛みが発生した。
「イ、イタイイイイイイ!!」
突然、鋭いもので頭を貫かれたような激痛が子セヤナーを襲った。
あまりの苦しみに身を悶えようとするが、なぜか体が動かせない。
それが終わるまで、実際には数分程度の時間だっただろう。
しかし子セヤナーにとっては非常に長かったその時間を、ただ鳴き叫んで耐えるしかなかった。

「ヤー…… ヤー……」
激痛の原因から解放された後も、子セヤナーはその場から動けずにいた。
痛い。頭が痛い。何が起こった? 助けて。
体を動かせない代わりに、様々な感情が湧いてくる。
しかし、湧いた感情も痛みによってすぐに塗りつぶされた。
結局、思考もおぼつかない子セヤナーには鳴くことしか出来なかった。



「オチビー ドコヤー?」
親セヤナーが昼寝から目を覚ますと、一緒に寝ていたはずの我が子の姿が消えていた。
子セヤナーは好奇心が旺盛だ。
たとえ親セヤナーがどんなに一人での外出が危険だと教えても、それで素直に従うはずもない。
子セヤナーが1匹で出歩くには、自然は厳しすぎる。
もし捕食者に見つかりでもすれば、大変なことになってしまうだろう。
そんなわけで、慌てて巣を飛び出して居なくなった自分の子供を探していた。

幸い、子セヤナーはすぐに見つかった。巣からそう遠く離れていない場所にいた。
ほっと一安心して我が子に近づく。
よく見るとプルプルと震えているが、無事見つけることが出来た安心感から親セヤナーはそれに気づかなかった。
「オッター ヨカッター カエルデー」

「…セヤナー」
子セヤナーは混乱していた。
何か良くないことが起こっていた気がする。でも、もう忘れた。
思い出したくない。今日は早く帰ってもう寝よう。

親セヤナーに発見されたとき、子セヤナーの頭の痛みはほとんど治っていた。
同時に、なぜ頭が痛かったのか? その原因もすっかり忘れてしまっていた。
子セヤナーの小さな頭は、過剰な痛みを記憶ごと消去することで自身を守ることに決めたようだった。
前を歩く親の後姿を見て安心したのだろうか。まだ夜には早い時間だが、子セヤナーは既に眠そうにしていた。



あの日から、少し時間が経過した。
「ヤー…ヤー…」
「オチビー ゲンキニー ナッテナー」
親セヤナーは心配だった。
ここ最近、ずっとオチビの調子が悪い。
記憶が正しければ、ひとりで散歩に行ったあの日からだ。
その日の夜には動きが鈍くなり、痛みを訴えだした。
一晩寝たら治ると思って寝かしつけたが、体調は日に日に悪くなっていった。
今では全く動けなくなり、弱々しく鳴くだけになってしまっている。

なんとかしてあげたいが、いかんせん原因が分からない。
結局、親セヤナーにはすり寄ってやることと、栄養のある食料を用意することしかできなかった。

気の休まらない日が続いた。日に日に弱っていくのが見て取れる。
それでもいつか元気になると信じて、親セヤナーは必死に看病を続けていた。
しかし、看病の甲斐は無かった。
ついにその日が来てしまったのだ。


その日、普段は静かなセヤナーの巣は朝から騒々しかった。
「アッアッ……アッアッアッアッアッ………アッアッアッ……」
オチビの様子がおかしい。
今までも苦しそうだったが、こんな鳴き方はしていなかった。
何か良くないことが起ころうとしている……ような気がする。
「オチビー ドウシター? ドウシテー?」
どうすれば良い? 分からない。
オロオロとする親セヤナーの目の前で、よく分からない鳴き方をする子セヤナー。
それが、最終段階が終了した合図だった。

親セヤナーの予感は的中していた。
“良くないこと”が、子セヤナーの後頭部から起こったのだ。

穴が開いた。
比喩でも何でもない。子セヤナーの頭、そのピンク色の部分が内側に落ち込み穴になった。
そして、穴の奥から、何かが這い出した。

悪夢としか言いようのない光景だった。
黒く、短い、蠢く何か。それは、無数の羽虫だった。
子セヤナーに開いた穴をこじ開けるように、2本の触覚が生えた頭部が、6本の足と薄い1対の羽が生えた胸部が、そして最後に大きな針の生えている腹部が現れた。
それも1匹や2匹ではない。小さなセヤナーの一体どこに収まっていたのか?
そう思うほど、次々と虫たちは湧いてきた。

「……アッ ……… アッ…」
壮絶な状況だが、子セヤナーに痛がる様子は見られない。
既に体内がほとんど全て食い荒らされ、痛みを感じる機能が失われていたからだ。
ときどき思い出したように短い鳴き声を上げるが、そこに子セヤナーの意思はない。
内部で虫が動いた拍子に口から空気が漏れているだけだ。
まだ脱色や溶解こそしていないものの、子セヤナーは既に生きていなかった。

「ヤアアア!! アッアッアッアッ」
親セヤナーは壮絶だった。
状況が理解できない。
何故? 何が起こっている? 何故オチビの頭から虫が出てくる??
思考が上手くまとまらない。
我が子から次々と出てくる虫を、ただ見ていることしか出来なかった。
もっとも、仮に頭が上手く働いていたとしても何も出来なかっただろうが……

生まれた虫たちはセヤナー親子などには目もくれず、どこかへと飛んで行った。
最後の虫が出て行った後、そこには穴だらけになって白く干からびた子セヤナーと、目の前で我が子の壮絶な死に様を見て思考停止した震える親セヤナーだけが残っていた。






説明:

それは、ある種類の昆虫です。

体長は3cm前後で、1対の羽を持ち飛行します。
そして、腹部に大きな針を持っています。
体長の3分の1ほどを占めるそれは、主として産卵のために用いられます。

この虫の最大の特徴は、産卵にセヤナーを利用することです。
産卵期になると、この虫は産卵のためにセヤナーを探します。

セヤナーを発見すると、まずはセヤナーにとって死角である後頭部にしがみ付きます。
これは、後にセヤナーが暴れた際にもしがみ付き続けるのに都合が良いからだと考えられています。

そして自身の持つ大きな針を刺し込み、ある種の成分を送り込みます。
この成分はセヤナーにとって麻酔の働きを持ち、しばらくすると体が動かせなくなることが確認されています。

麻酔が効くまでの間、大抵のセヤナーは刺された痛みと自身の中に異物が入ってくる感覚で暴れます。しかし、麻酔は即効性らしくすぐに動かなくなります。
セヤナーの動きが止まった後、この虫はゆっくりと卵の植え付けを行い、そして最後に別の成分を注射します。
この成分にはセヤナーの命令系統に干渉する作用があるらしく、注射されたセヤナーは隠れられそうな場所に自ら移動し、そこで動かなくなります。

ただし、この干渉の力はあまり強いものではないようで、今回のように他のセヤナーに促されて自分の巣まで帰ることもあるようです。
なお、その様な場合でも動かなくなる効果については問題なく発揮されます。
このことから、命令系統に干渉する効果と動かなくなる効果は別の成分によって引き起こされたものではないかと考えられています。

イレギュラーが発生しなければ、卵は安全な場所へ自動で送られることになります。
セヤナーの体は卵が孵化して成長するまでの餌となります。
そして内部を食い尽くした頃には、セヤナーの表面を食い破り成虫として飛び立っていきます。

このような特殊な生殖行動から、この虫はセヤナーを利用するセヤナー寄生生物に分類されています。
なお、この種以外のセヤナー寄生生物は現在のところ発見されていません。

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