最終更新: merciless_earth 2018年02月20日(火) 22:31:44履歴
注意:このSSには、落石という自然災害の描写が含まれております
苦手なかたはブラウザバックをお願いします
また、閲覧中に体調等が優れなくなった場合、閲覧を中断し、十分な休息をとって下さい
野生の生き物にとって、自然災害は一種の天敵と言っても差し支えはないであろう。
その法則は、もちろんセヤナーにも当てはまる。
仄暗い森の中で、悲鳴が上がる。
「イタイー! イタイー!」
赤々と熟した果物を集めていた野生のセヤナーが、複数のタヌキに襲われたのだ。
どの生物も、生きるためには食料を集めなければならない。
中でも栄養価が高く味の良いものは、必然的に競争率が上がり、取り合いが起こる。
だが、セヤナーのような生存競争が苦手な生物が得ようとしても、他の食物とまとめて別の生物の備蓄扱いされてしまう。
対抗手段の一つに、巨大化するという選択肢もあるが、そこまで大きくなるのは非常に困難である。
また、仮に実現してもクマなどの大型生物や、スズメバチなどの有毒生物には勝てないのが現実だ。
他の対抗手段もまた、何らかの対策をとられ、近頃は無意味になってきている。
セヤナーの悲鳴は、一つだけに留まらなかった。
「アアアアアアア!」
「ヤー! イタイイイイ!」
「ユルシテー! ユルシ……アアアアア!」
森の至るところで上がる甲高い苦痛の叫び。
どれも先ほどのセヤナーと同じような理由で襲われ、食料となっている。
その様子を、朽ちて倒れた木の隙間から、一匹の小さな子セヤナーが悲しげな目で見ていた。
「ウチラモ エエモン タベタイー」
それに応えるのは、その親である成セヤナー。
「セヤナー……」
セヤナーは他の生物と比べて味覚が発達している。
しかし先述した通り、その味覚に合う餌を求めれば、自分たちが食物にされてしまう。
だからこそ、他生物が狙わないような、質が低く味の良くないものしか確保できない。
こうした環境は、セヤナーにとっては耐えがたいものだ。
だからこそ、親セヤナーは決めた。
「オチビー ヒッコシヤデー」
「ワカッター」
そうして親子は、この森を出発した。
「セーヤ セーヤ」
切り立った岩肌に接した、緩やかな山の斜面を親セヤナーが先行する。
「セーヤ セーヤ」
そのすぐ後ろに、子セヤナーが続く。
現在、新たな棲処を求めて移動している最中だ。
この付近には、他の野生生物はおろか、人間なども近付かない。
だからこそ、親セヤナーは今回の引っ越しの道程にここを選んだのである。
「ヤー ウチラ アンシンー」
「ヤデー」
このようなことが言えるのも、そのためだ。
決して楽な道程ではないものの、気楽に進んでいける。
それに、以前棲んでいた天敵だらけの森に比べれば、道が少し険しいくらい苦ではない。
空は青く晴れ渡り、雨が降りそうな気配は今のところなし。
長い距離を移動するには、絶好の日和である。
しかし、何不自由なく移動できるというわけでもない。
「ヤー…… オカーサン オナカスイター……」
出発から数時間ほど経ったせいか、子セヤナーが空腹を訴え始めた。
顔色にも疲労がにじみ出ている。
無理もない。
生物である以上、体力にも限界がある。
まだ十分に成長しきっておらず、体の小さい子セヤナーなら尚更だ。
それに以前居た森では、ろくな餌を取れなかった。
「セヤナー ソロソロ ゴハンー」
天敵が見当たらない今なら、良質な餌を安全に得られるはずだ。
子セヤナーをその場に休ませ、親セヤナーは周囲を忙しなく見回す。
すると、
「ヤー! エビフライー エビフライー」
一羽の野生エビフライが、離れた位置の空を悠々と飛んでいた。
「ホンマヤー! エビフライー」
子セヤナーも、そちらに気付く。
長い旅路に、思いもよらぬ御馳走だ。
親子の視線は、自然とそちらの方へ釘付けになる。
こうした機会は、セヤナーにとって滅多にない。
それに、久しぶりのまともな食事に、より良いものを選びたくなるのも親心というものだ。
親セヤナーは捕獲するべく、
「ヤーッ……」
全身が平たくなるほど屈み、その反動で跳躍しようと試みる。
しかし、それは叶うことはなかった。
何かが崩落する音。
間を置かぬ、轟音と衝撃。
「アギャアッ!」
崩れた岩壁の一部が、落石となって親セヤナーに猛威を振るった。
その一撃は、全身が柔らかいセヤナーにとって致命的なものだった。
体の所々が飛沫のごとく飛び散り、体液が堰を切ったようにあふれ出す。
ただでさえ屈んで平たくなっていた体は、紙のように薄く潰され、大きく破れていた。
「ヤ……ヤ……ア……」
たちまち親セヤナーの呼吸が弱々しくなり、体の色が脱けていく。
「オカーサーン! オカーサーン!」
「オ……チ ビ……オ……チ……」
泣きながら駆け寄る子セヤナーの目の前には、もう言葉もろくに出せなくなった親セヤナー。
まだ幼い子セヤナーに、この光景はショックが大きすぎる。
小さな心は今にもはち切れそうになり、目からは勝手に涙が絶え間なくこぼれる。
「オカーサーン! オカーサーン! ヤアアアアア!」
一方の親セヤナーも、この状況をどうすることもできない。
体を押し潰した落石は、セヤナーの力では少しも動かすことができない。
そもそも落石をどうにかできたところで、体の致命傷はセヤナーの高い再生力をもってしても直らないほどの損傷だ。
「アッ……アアッ……ヤアアアア!」
「……オ……オ……」
子セヤナーをなぐさめたいと思っても、口はろくに動かず、言葉が上手く出せない。
涙を流すための体液も底をつき、親セヤナーは今の自分の無力さを痛いほど感じた。
悲しい。
こうした目に遭うのも、自分の子がこれほど泣いているのも。
天敵のいない森を出れば、自分たちに危機は来ないと思ったのに。
だが、悲劇はこれで終わらない。
再びの崩落。
そして、二度目の衝撃。
「アアアアア!」
子セヤナーもまた、落石の餌食となる。
親セヤナー以上に柔らかく脆い子セヤナーに、より凄まじい致命傷を与える。
小さな体は衝撃によって、更に細かく散り散りになり、体液は蹴散らされたように周囲にばらまかれていた。
目や口、髪飾りといった特徴も、ガラクタのごとく地面に放り出されている。
子セヤナーは、完全に事切れていた。
「オ……チ……」
その一生を終えゆく親セヤナーには、これ以上ない追い討ち。
心すらも徹底的に砕かれ、途切れいく意識がより一層虚ろになっていく。
絶命をより決定的なものとするには、十分すぎるほどの威力を持っていた。
親子の二匹は、もう動くことはない。
それらの残骸は、徐々に融けて解れていく。
こうして、二つの生物は呆気なく土に還っていった。
生き残ったのは、事前に危険を察知し、その場から離れていたエビフライだけである。
今回犠牲となった二匹のいた場所は、以前から岩壁が脆くなっていると複数の専門家から報告があり、立入禁止の制限がされていた。
ゆえに、人間は誰も近寄らなかった。
他の野生生物もまた、その場所に良からぬものを感じたのか、人間と同じ選択肢をとった。
出来事を離れて観察していたエビフライも、仲間のためを思って、あの場を視察しに来ただけである。
結局、危険を理解できなかったのは、セヤナーだけだったのだ。
先の親子セヤナーも別の道程を選べば、あるいは森を出ずに、生きていけるだけでも幸せだと気付けていたら、あの末路を辿らずに済んだかもしれない。
こうした落石による野生セヤナーの死亡率は、一向に減少しない。
むしろ場合によっては、複数の群れや集団などの全滅により、増加することもある。
これを見ている皆さんも、何があろうと危険な場所には近付かないようにして、ご自身の安全を最大限守っていただきたい。
たった一つしかない命を、どうか大切に……。
苦手なかたはブラウザバックをお願いします
また、閲覧中に体調等が優れなくなった場合、閲覧を中断し、十分な休息をとって下さい
野生の生き物にとって、自然災害は一種の天敵と言っても差し支えはないであろう。
その法則は、もちろんセヤナーにも当てはまる。
仄暗い森の中で、悲鳴が上がる。
「イタイー! イタイー!」
赤々と熟した果物を集めていた野生のセヤナーが、複数のタヌキに襲われたのだ。
どの生物も、生きるためには食料を集めなければならない。
中でも栄養価が高く味の良いものは、必然的に競争率が上がり、取り合いが起こる。
だが、セヤナーのような生存競争が苦手な生物が得ようとしても、他の食物とまとめて別の生物の備蓄扱いされてしまう。
対抗手段の一つに、巨大化するという選択肢もあるが、そこまで大きくなるのは非常に困難である。
また、仮に実現してもクマなどの大型生物や、スズメバチなどの有毒生物には勝てないのが現実だ。
他の対抗手段もまた、何らかの対策をとられ、近頃は無意味になってきている。
セヤナーの悲鳴は、一つだけに留まらなかった。
「アアアアアアア!」
「ヤー! イタイイイイ!」
「ユルシテー! ユルシ……アアアアア!」
森の至るところで上がる甲高い苦痛の叫び。
どれも先ほどのセヤナーと同じような理由で襲われ、食料となっている。
その様子を、朽ちて倒れた木の隙間から、一匹の小さな子セヤナーが悲しげな目で見ていた。
「ウチラモ エエモン タベタイー」
それに応えるのは、その親である成セヤナー。
「セヤナー……」
セヤナーは他の生物と比べて味覚が発達している。
しかし先述した通り、その味覚に合う餌を求めれば、自分たちが食物にされてしまう。
だからこそ、他生物が狙わないような、質が低く味の良くないものしか確保できない。
こうした環境は、セヤナーにとっては耐えがたいものだ。
だからこそ、親セヤナーは決めた。
「オチビー ヒッコシヤデー」
「ワカッター」
そうして親子は、この森を出発した。
「セーヤ セーヤ」
切り立った岩肌に接した、緩やかな山の斜面を親セヤナーが先行する。
「セーヤ セーヤ」
そのすぐ後ろに、子セヤナーが続く。
現在、新たな棲処を求めて移動している最中だ。
この付近には、他の野生生物はおろか、人間なども近付かない。
だからこそ、親セヤナーは今回の引っ越しの道程にここを選んだのである。
「ヤー ウチラ アンシンー」
「ヤデー」
このようなことが言えるのも、そのためだ。
決して楽な道程ではないものの、気楽に進んでいける。
それに、以前棲んでいた天敵だらけの森に比べれば、道が少し険しいくらい苦ではない。
空は青く晴れ渡り、雨が降りそうな気配は今のところなし。
長い距離を移動するには、絶好の日和である。
しかし、何不自由なく移動できるというわけでもない。
「ヤー…… オカーサン オナカスイター……」
出発から数時間ほど経ったせいか、子セヤナーが空腹を訴え始めた。
顔色にも疲労がにじみ出ている。
無理もない。
生物である以上、体力にも限界がある。
まだ十分に成長しきっておらず、体の小さい子セヤナーなら尚更だ。
それに以前居た森では、ろくな餌を取れなかった。
「セヤナー ソロソロ ゴハンー」
天敵が見当たらない今なら、良質な餌を安全に得られるはずだ。
子セヤナーをその場に休ませ、親セヤナーは周囲を忙しなく見回す。
すると、
「ヤー! エビフライー エビフライー」
一羽の野生エビフライが、離れた位置の空を悠々と飛んでいた。
「ホンマヤー! エビフライー」
子セヤナーも、そちらに気付く。
長い旅路に、思いもよらぬ御馳走だ。
親子の視線は、自然とそちらの方へ釘付けになる。
こうした機会は、セヤナーにとって滅多にない。
それに、久しぶりのまともな食事に、より良いものを選びたくなるのも親心というものだ。
親セヤナーは捕獲するべく、
「ヤーッ……」
全身が平たくなるほど屈み、その反動で跳躍しようと試みる。
しかし、それは叶うことはなかった。
何かが崩落する音。
間を置かぬ、轟音と衝撃。
「アギャアッ!」
崩れた岩壁の一部が、落石となって親セヤナーに猛威を振るった。
その一撃は、全身が柔らかいセヤナーにとって致命的なものだった。
体の所々が飛沫のごとく飛び散り、体液が堰を切ったようにあふれ出す。
ただでさえ屈んで平たくなっていた体は、紙のように薄く潰され、大きく破れていた。
「ヤ……ヤ……ア……」
たちまち親セヤナーの呼吸が弱々しくなり、体の色が脱けていく。
「オカーサーン! オカーサーン!」
「オ……チ ビ……オ……チ……」
泣きながら駆け寄る子セヤナーの目の前には、もう言葉もろくに出せなくなった親セヤナー。
まだ幼い子セヤナーに、この光景はショックが大きすぎる。
小さな心は今にもはち切れそうになり、目からは勝手に涙が絶え間なくこぼれる。
「オカーサーン! オカーサーン! ヤアアアアア!」
一方の親セヤナーも、この状況をどうすることもできない。
体を押し潰した落石は、セヤナーの力では少しも動かすことができない。
そもそも落石をどうにかできたところで、体の致命傷はセヤナーの高い再生力をもってしても直らないほどの損傷だ。
「アッ……アアッ……ヤアアアア!」
「……オ……オ……」
子セヤナーをなぐさめたいと思っても、口はろくに動かず、言葉が上手く出せない。
涙を流すための体液も底をつき、親セヤナーは今の自分の無力さを痛いほど感じた。
悲しい。
こうした目に遭うのも、自分の子がこれほど泣いているのも。
天敵のいない森を出れば、自分たちに危機は来ないと思ったのに。
だが、悲劇はこれで終わらない。
再びの崩落。
そして、二度目の衝撃。
「アアアアア!」
子セヤナーもまた、落石の餌食となる。
親セヤナー以上に柔らかく脆い子セヤナーに、より凄まじい致命傷を与える。
小さな体は衝撃によって、更に細かく散り散りになり、体液は蹴散らされたように周囲にばらまかれていた。
目や口、髪飾りといった特徴も、ガラクタのごとく地面に放り出されている。
子セヤナーは、完全に事切れていた。
「オ……チ……」
その一生を終えゆく親セヤナーには、これ以上ない追い討ち。
心すらも徹底的に砕かれ、途切れいく意識がより一層虚ろになっていく。
絶命をより決定的なものとするには、十分すぎるほどの威力を持っていた。
親子の二匹は、もう動くことはない。
それらの残骸は、徐々に融けて解れていく。
こうして、二つの生物は呆気なく土に還っていった。
生き残ったのは、事前に危険を察知し、その場から離れていたエビフライだけである。
今回犠牲となった二匹のいた場所は、以前から岩壁が脆くなっていると複数の専門家から報告があり、立入禁止の制限がされていた。
ゆえに、人間は誰も近寄らなかった。
他の野生生物もまた、その場所に良からぬものを感じたのか、人間と同じ選択肢をとった。
出来事を離れて観察していたエビフライも、仲間のためを思って、あの場を視察しに来ただけである。
結局、危険を理解できなかったのは、セヤナーだけだったのだ。
先の親子セヤナーも別の道程を選べば、あるいは森を出ずに、生きていけるだけでも幸せだと気付けていたら、あの末路を辿らずに済んだかもしれない。
こうした落石による野生セヤナーの死亡率は、一向に減少しない。
むしろ場合によっては、複数の群れや集団などの全滅により、増加することもある。
これを見ている皆さんも、何があろうと危険な場所には近付かないようにして、ご自身の安全を最大限守っていただきたい。
たった一つしかない命を、どうか大切に……。
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