最終更新: merciless_earth 2018年06月16日(土) 15:31:15履歴
2015年に発見されて以降、セヤナーは様々な問題を引き起こした。
他生物への感染、ゴミ漁り、建物や私有地等への侵入、騒音被害、異常な数の繁殖、生態系への悪影響など、挙げれば切りがない。
これらは人間のみならず、類似種や全く関係のない他生物にとっても看過できないものとなった。
そう、セヤナーは余りにも多くの過ちを犯してしまったのだ。
人間たちにも、省みるべき点は恐らくあったのだろう。
セヤナーを取り巻く環境そのものにも、改善すべき要素があった可能性も否定できない。
しかし、セヤナー自身も気付くべきだったかも知れない。
自分たちが、何をしてきたかを。
互いの落ち度を見直し、改善し合っていけば、セヤナーと周囲の関係は多少は良好なものになったであろう。
だが、この世界の歴史において、両者の間に大きな軋轢が生じてしまった。
昔の過ちを反省しても、己の間違いを後悔しても、すでに取り返しがつかない所まで来ている。
助けられる者は、いないのだろう。
この世界は、セヤナーへの風当たりが強い世界であるのだから。
広々とした実験室から、甲高い悲鳴が一つ上がる。
「ヤアアアア! ヤメテー! ヤメテー!」
台に固定されたセヤナーが、遠隔式のアームに取り付けられた解剖刀を向けられ、怯えている。
このセヤナーは、保護指定されている野生の小動物に襲いかかろうとしていた直前で捕縛され、この場所に運ばれてきた野生個体だ。
ここは、国中に遍在するセヤナーの研究施設。
各地で捕獲に成功した野良個体や野生個体は、こうした施設に移され、研究や実験に使用される。
捕獲できない場合は、即座に駆除。
どちらにしても、命が保障されることはない。
野良セヤナーと野生セヤナーは、地球環境を脅かす害虫とされてしまったのだから。
「イタイッ! イタイッ! イタイイイイイイイ!」
解剖刀が、セヤナーの腹部を容易く切り開く。
セヤナー用の麻酔は、ここでは使われない。
実験で消費する虫に使う費用は、少しでも減らすというのが、ここの方針だ。
セヤナーが発見された当時は、こうした対応はしなかっただろう。
だが、先述のセヤナーによる被害が、それを変えてしまった。
特に、他生物への感染が、人々の恐怖心、嫌悪感、憎しみといった感情を生み出した。
そうして、人々は思ったのだ。
『セヤナーは、敵だ』
「オネガイイイイイイイ! ユルシテエエエエエエエ!」
願っても、許しを乞うても、無意味。
その言葉を聞き入れる存在が、もうどこにもいない。
それを知らないセヤナーは、尚も叫び続ける。
だが、
「オネガイイイイイ! オネガッ……」
解剖刀に臓器を切り取られ、声一つ出せなくなった。
後は、パーツごとに解体されていくだけだ。
ここに送られた時点で、ただの研究資料にすぎない。
別の台では、アームに設置された注射器を刺されている野生セヤナーの姿があった。
「イッ! イッ! イタイッ! イタイッ!」
その中身は、セヤナーの臓器に影響を与え、その機能を失わせる細胞だ。
感染能力といった危険な力を、この世から完全に絶やそうといった各方面の意思が込められている。
現に、この製品版は各地に普及し、その成果を見せている。
もっとも、
「ンンンンンンン! アカンー! シンジャウウウウウウウ!」
そこに、セヤナーと共存しようという意図は含まれていない。
逆に、この細胞の更なる改良のためなら、セヤナーが何匹犠牲になろうと構わない。
今も、そういう方針で実験が進められている。
「アアアアアアア! ……ヤー……ヤー……」
細胞を投与されたセヤナーは、段々と衰弱していく。
表皮から粘液が失われ、全身が萎れていく。
実験自体が成功しても、このセヤナーはもう助からない。
今日も、研究と実験が行なわれる。
多くのセヤナーを、消耗品にして。
自然を棲処とする野生セヤナーや、人里に居着く野良セヤナーが、必ずしも研究施設に送られるとは限らない。
捕獲される、あるいは発見される前に命を落としていることもあるのだ。
そこには様々な事情がある。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙! コノ ドロボー!」
野生のダヨネーが、太い木の棒を振り回して野生のセヤナーを追い回す。
発端は、セヤナーがダヨネーの巣に入り、餌を要求したということだ。
「アオイー! ヤメテー! ヤメテー!」
「ナニガ アオイーダ! コノ クソムシガアアアア!」
元々は友好関係にあったダヨネーとセヤナーが、今はこうなったことには理由がある。
越冬の準備をせずに怠け続けた挙句、いざ冬となれば餌をダヨネーから無心し続けたこと。
冬の時期以外でも、狩りをサボって餌をダヨネーにねだり続けたこと。
普段は姉のように振る舞っていたものの、対処し切れない危機が来れば、ダヨネーを見捨てるか、囮にして自分だけで逃げてきたこと。
ダヨネーだけでなく、自分たちに親切にしようとした人間や野生生物に対し、恩を仇で返すようなことをしてきたこと、等々。
そうしたセヤナーの行動が、ダヨネーの怒りや恨みを買い、友好関係を破綻させた。
「オネガイー! ユルシテエエエエエ!」
「オネガイ ナンテ シラネーヨ! オマエ ナンカ ユルスカアアアアア!」
とうとうセヤナーはダヨネーに捕まり、多くの恨みが込められた殴打を何度も浴びる。
「モ゙ッ! モ゙ッ! ゴブッ! ゴブッ! モ゙ッモ゙ッゴブッ!」
「クタバレエ! クタバレエエエ! クタバレエエエエエ!」
見回せば、他の場所でも同じことが行なわれている。
「ツブレロオオオ! セヤナーメ! ツブレロオオオオオ!」
「ヤ゙メ゙ッ…… ア゙オ゙ッ…… ヤ゙メ゙デ……」
「サボリマ! ヒキョウモノ! シネゴラアアアアア!」
「ア゙ッ…… ア゙ッ…… ゴメ゙ン゙ナ゙ザイ゙……」
「セヤナー オイシイ!」
「アッ……アッ……アッ……」
こうした関係の亀裂も、最早致命的なところまで来てしまった。
セヤナーを見限るダヨネーは、徐々に増えつつある。
怒りや恨みという感情は、人間も持っているものである。
冒頭で挙げた数え切れない被害は、そうした感情を呼び起こした。
人間もまた、セヤナーを見限りつつある。
これは、町外れの荒地での出来事。
「エ゙ー……エ゙ー……」
一匹のセヤナーが、普通なら発しない鳴き声を上げている。
見れば、両目蓋をテープで限界まで広げられ、両唇も同じように留められていた。
更に、舌は上唇にくっ付けられ、触手や腹足も全てテープで固められている。
このテープは、某企業が開発、販売しているセギャテープという製品だ。
元々はセヤナーの寝言を改善させるために開発されたセヤテープという製品になるはずだった。
しかし、セヤナーの粘液で滑らないよう、粘液を利用して粘着性を上げる技術を応用した結果、セヤナーの表皮を傷付ける物となったため、現在の製品名でセ虐用グッズとして発売する運びとなった。
このテープを貼られているセヤナーは、元は飼い個体であったものの、一向に改善しない寝言癖に辟易し、意趣返しとばかりにこの状態で捨てられた。
当然、これでは餌どころか、棲処を見つけることも、天敵から逃げることもできない。
このセヤナーの運命は、餓死か、あるいは……。
少し離れた場所では、別のセヤナーが呻き声を上げている。
「ヴッ! ゴヴッ! ゴヴアッ! ゴア゙ッ!」
頭頂部を掴まれ、腹足の所に強烈な拳を食らっているのだ。
その呻きも、普段の甲高いものとは違い、くぐもった低い音程である。
呻き声と共に吐き出される体液は、胃液や吐瀉物が混じり、セヤナーの舌に不快感と刺激を与えた。
「ゴオ゙ッ! ア゙ゲッ! ユ゙ル゙ッ! ア゙ア゙ッ」
腹を殴られているせいか、まともな言葉を出せない。
その口から漏れるのは、内臓の損傷を訴える汚物だけ。
時折、それらと共に内臓のいくつかも吐き出してしまった。
そうなれば、末路など推して知るべし。
人間にされるがままのセヤナーは、他にも……。
「ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」
顔面を猛烈に連打され、元の形がなくなるほど傷付けられたセヤナーがいた。
両目はすでに千切れて、地面に転がっている。
あふれた体液の量は、このセヤナーがもう助からないことを告げていた。
「ギュウウウウウウウ……」
アイアンクローを受け、顔面を握り潰されているセヤナーの姿もある。
ひしゃげた目や口といったパーツは、二度と元には戻らないだろう。
この荒地は、町のセ虐師や駆除業者がセヤナーたちを追い詰め、誘い出し、仕留めるための袋小路。
その証拠に、この場所から出るための道は一つしかない。
その道も、見張り役によって厳重にガードされ、逃げることはできない。
よって、セヤナーは皆、セ虐と駆除を受け入れざるを得ない。
そもそも人里に侵入し、好き放題に荒らしてしまったことが運の尽き。
セヤナーは、野良も野生もまとめて始末される運命にあるのだ。
そして、今日もまた、セヤナーだった残骸が増えていく。
これもまた、人間を敵に回してしまったセヤナーの宿命である。
人間やダヨネーといった存在の目を逃れても、生き残れるとは限らない。
セヤナーの命を奪う存在は、彼らだけではないのだから。
人里や野生生物の棲処から離れた、湿気の多い地中の空洞。
そこに、一匹の親セヤナーと三匹の子セヤナーがいた。
だが、その四匹は生死の間をさまよっていた。
まともに餌を取れずに衰弱していたところを、カビに寄生されたのだ。
全個体の腹足は、すでにカビで埋め尽くされた。
親子はもう、動くことすらままならない。
「ウチナー…… セヤナー…… ヤデー……」
親セヤナーは、うわ言のようにそう繰り返す。
頭を覆い尽くすカビが脳まで侵食し、思考力を失ったのだ。
「ウチナー…… セヤナー…… ヤデー……」
セヤナーとして、この親個体はもう壊れている。
「アッ……アッ……アッ……」
二番目の子セヤナーは、衰弱の度合いが著しい。
腹足どころか、触手の全てをもカビに食われている。
全身が丸ごと侵食されるのも時間の問題。
三番目の子セヤナーは、すでにそうなっていた。
この個体がセヤナーだったことを示すのは、微かに残ったシルエットだけ。
この子セヤナーが、セヤナーであるか、もしくはカビであるかは、もう判別がつかない。
一匹だけ正気を保てる状態である一番目の子セヤナーにとって、ここは生き地獄だった。
天敵からどうにか逃れ、ようやく得た安息の地だと思った場所が、餌も得られないどころか、カビの温床だったとは。
「モウ…… シニタイ…… ダレカ…… コロシテ……」
何度、そう願ったことか。
あらゆる存在から逃げ回ったことが仇となった。
死にたいと願っても、実行してくれる存在がどこにもいない。
最早、カビに食い尽くされる時を待つしかない。
子セヤナーの生き地獄は、その意識が失われるまで続いていく。
友好関係が、敵対関係に。
愛情が、憎悪に。
味方が、天敵に。
こうしたことは、己の過信や周囲への傲慢さ、あるいは横柄な言動といったものが引き金となる。
皆さんもどうか、お気をつけて。
風当たりが強い世界は、セヤナー以外にも牙を剥くかも知れない。
他生物への感染、ゴミ漁り、建物や私有地等への侵入、騒音被害、異常な数の繁殖、生態系への悪影響など、挙げれば切りがない。
これらは人間のみならず、類似種や全く関係のない他生物にとっても看過できないものとなった。
そう、セヤナーは余りにも多くの過ちを犯してしまったのだ。
人間たちにも、省みるべき点は恐らくあったのだろう。
セヤナーを取り巻く環境そのものにも、改善すべき要素があった可能性も否定できない。
しかし、セヤナー自身も気付くべきだったかも知れない。
自分たちが、何をしてきたかを。
互いの落ち度を見直し、改善し合っていけば、セヤナーと周囲の関係は多少は良好なものになったであろう。
だが、この世界の歴史において、両者の間に大きな軋轢が生じてしまった。
昔の過ちを反省しても、己の間違いを後悔しても、すでに取り返しがつかない所まで来ている。
助けられる者は、いないのだろう。
この世界は、セヤナーへの風当たりが強い世界であるのだから。
広々とした実験室から、甲高い悲鳴が一つ上がる。
「ヤアアアア! ヤメテー! ヤメテー!」
台に固定されたセヤナーが、遠隔式のアームに取り付けられた解剖刀を向けられ、怯えている。
このセヤナーは、保護指定されている野生の小動物に襲いかかろうとしていた直前で捕縛され、この場所に運ばれてきた野生個体だ。
ここは、国中に遍在するセヤナーの研究施設。
各地で捕獲に成功した野良個体や野生個体は、こうした施設に移され、研究や実験に使用される。
捕獲できない場合は、即座に駆除。
どちらにしても、命が保障されることはない。
野良セヤナーと野生セヤナーは、地球環境を脅かす害虫とされてしまったのだから。
「イタイッ! イタイッ! イタイイイイイイイ!」
解剖刀が、セヤナーの腹部を容易く切り開く。
セヤナー用の麻酔は、ここでは使われない。
実験で消費する虫に使う費用は、少しでも減らすというのが、ここの方針だ。
セヤナーが発見された当時は、こうした対応はしなかっただろう。
だが、先述のセヤナーによる被害が、それを変えてしまった。
特に、他生物への感染が、人々の恐怖心、嫌悪感、憎しみといった感情を生み出した。
そうして、人々は思ったのだ。
『セヤナーは、敵だ』
「オネガイイイイイイイ! ユルシテエエエエエエエ!」
願っても、許しを乞うても、無意味。
その言葉を聞き入れる存在が、もうどこにもいない。
それを知らないセヤナーは、尚も叫び続ける。
だが、
「オネガイイイイイ! オネガッ……」
解剖刀に臓器を切り取られ、声一つ出せなくなった。
後は、パーツごとに解体されていくだけだ。
ここに送られた時点で、ただの研究資料にすぎない。
別の台では、アームに設置された注射器を刺されている野生セヤナーの姿があった。
「イッ! イッ! イタイッ! イタイッ!」
その中身は、セヤナーの臓器に影響を与え、その機能を失わせる細胞だ。
感染能力といった危険な力を、この世から完全に絶やそうといった各方面の意思が込められている。
現に、この製品版は各地に普及し、その成果を見せている。
もっとも、
「ンンンンンンン! アカンー! シンジャウウウウウウウ!」
そこに、セヤナーと共存しようという意図は含まれていない。
逆に、この細胞の更なる改良のためなら、セヤナーが何匹犠牲になろうと構わない。
今も、そういう方針で実験が進められている。
「アアアアアアア! ……ヤー……ヤー……」
細胞を投与されたセヤナーは、段々と衰弱していく。
表皮から粘液が失われ、全身が萎れていく。
実験自体が成功しても、このセヤナーはもう助からない。
今日も、研究と実験が行なわれる。
多くのセヤナーを、消耗品にして。
自然を棲処とする野生セヤナーや、人里に居着く野良セヤナーが、必ずしも研究施設に送られるとは限らない。
捕獲される、あるいは発見される前に命を落としていることもあるのだ。
そこには様々な事情がある。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙! コノ ドロボー!」
野生のダヨネーが、太い木の棒を振り回して野生のセヤナーを追い回す。
発端は、セヤナーがダヨネーの巣に入り、餌を要求したということだ。
「アオイー! ヤメテー! ヤメテー!」
「ナニガ アオイーダ! コノ クソムシガアアアア!」
元々は友好関係にあったダヨネーとセヤナーが、今はこうなったことには理由がある。
越冬の準備をせずに怠け続けた挙句、いざ冬となれば餌をダヨネーから無心し続けたこと。
冬の時期以外でも、狩りをサボって餌をダヨネーにねだり続けたこと。
普段は姉のように振る舞っていたものの、対処し切れない危機が来れば、ダヨネーを見捨てるか、囮にして自分だけで逃げてきたこと。
ダヨネーだけでなく、自分たちに親切にしようとした人間や野生生物に対し、恩を仇で返すようなことをしてきたこと、等々。
そうしたセヤナーの行動が、ダヨネーの怒りや恨みを買い、友好関係を破綻させた。
「オネガイー! ユルシテエエエエエ!」
「オネガイ ナンテ シラネーヨ! オマエ ナンカ ユルスカアアアアア!」
とうとうセヤナーはダヨネーに捕まり、多くの恨みが込められた殴打を何度も浴びる。
「モ゙ッ! モ゙ッ! ゴブッ! ゴブッ! モ゙ッモ゙ッゴブッ!」
「クタバレエ! クタバレエエエ! クタバレエエエエエ!」
見回せば、他の場所でも同じことが行なわれている。
「ツブレロオオオ! セヤナーメ! ツブレロオオオオオ!」
「ヤ゙メ゙ッ…… ア゙オ゙ッ…… ヤ゙メ゙デ……」
「サボリマ! ヒキョウモノ! シネゴラアアアアア!」
「ア゙ッ…… ア゙ッ…… ゴメ゙ン゙ナ゙ザイ゙……」
「セヤナー オイシイ!」
「アッ……アッ……アッ……」
こうした関係の亀裂も、最早致命的なところまで来てしまった。
セヤナーを見限るダヨネーは、徐々に増えつつある。
怒りや恨みという感情は、人間も持っているものである。
冒頭で挙げた数え切れない被害は、そうした感情を呼び起こした。
人間もまた、セヤナーを見限りつつある。
これは、町外れの荒地での出来事。
「エ゙ー……エ゙ー……」
一匹のセヤナーが、普通なら発しない鳴き声を上げている。
見れば、両目蓋をテープで限界まで広げられ、両唇も同じように留められていた。
更に、舌は上唇にくっ付けられ、触手や腹足も全てテープで固められている。
このテープは、某企業が開発、販売しているセギャテープという製品だ。
元々はセヤナーの寝言を改善させるために開発されたセヤテープという製品になるはずだった。
しかし、セヤナーの粘液で滑らないよう、粘液を利用して粘着性を上げる技術を応用した結果、セヤナーの表皮を傷付ける物となったため、現在の製品名でセ虐用グッズとして発売する運びとなった。
このテープを貼られているセヤナーは、元は飼い個体であったものの、一向に改善しない寝言癖に辟易し、意趣返しとばかりにこの状態で捨てられた。
当然、これでは餌どころか、棲処を見つけることも、天敵から逃げることもできない。
このセヤナーの運命は、餓死か、あるいは……。
少し離れた場所では、別のセヤナーが呻き声を上げている。
「ヴッ! ゴヴッ! ゴヴアッ! ゴア゙ッ!」
頭頂部を掴まれ、腹足の所に強烈な拳を食らっているのだ。
その呻きも、普段の甲高いものとは違い、くぐもった低い音程である。
呻き声と共に吐き出される体液は、胃液や吐瀉物が混じり、セヤナーの舌に不快感と刺激を与えた。
「ゴオ゙ッ! ア゙ゲッ! ユ゙ル゙ッ! ア゙ア゙ッ」
腹を殴られているせいか、まともな言葉を出せない。
その口から漏れるのは、内臓の損傷を訴える汚物だけ。
時折、それらと共に内臓のいくつかも吐き出してしまった。
そうなれば、末路など推して知るべし。
人間にされるがままのセヤナーは、他にも……。
「ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ヤ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」
顔面を猛烈に連打され、元の形がなくなるほど傷付けられたセヤナーがいた。
両目はすでに千切れて、地面に転がっている。
あふれた体液の量は、このセヤナーがもう助からないことを告げていた。
「ギュウウウウウウウ……」
アイアンクローを受け、顔面を握り潰されているセヤナーの姿もある。
ひしゃげた目や口といったパーツは、二度と元には戻らないだろう。
この荒地は、町のセ虐師や駆除業者がセヤナーたちを追い詰め、誘い出し、仕留めるための袋小路。
その証拠に、この場所から出るための道は一つしかない。
その道も、見張り役によって厳重にガードされ、逃げることはできない。
よって、セヤナーは皆、セ虐と駆除を受け入れざるを得ない。
そもそも人里に侵入し、好き放題に荒らしてしまったことが運の尽き。
セヤナーは、野良も野生もまとめて始末される運命にあるのだ。
そして、今日もまた、セヤナーだった残骸が増えていく。
これもまた、人間を敵に回してしまったセヤナーの宿命である。
人間やダヨネーといった存在の目を逃れても、生き残れるとは限らない。
セヤナーの命を奪う存在は、彼らだけではないのだから。
人里や野生生物の棲処から離れた、湿気の多い地中の空洞。
そこに、一匹の親セヤナーと三匹の子セヤナーがいた。
だが、その四匹は生死の間をさまよっていた。
まともに餌を取れずに衰弱していたところを、カビに寄生されたのだ。
全個体の腹足は、すでにカビで埋め尽くされた。
親子はもう、動くことすらままならない。
「ウチナー…… セヤナー…… ヤデー……」
親セヤナーは、うわ言のようにそう繰り返す。
頭を覆い尽くすカビが脳まで侵食し、思考力を失ったのだ。
「ウチナー…… セヤナー…… ヤデー……」
セヤナーとして、この親個体はもう壊れている。
「アッ……アッ……アッ……」
二番目の子セヤナーは、衰弱の度合いが著しい。
腹足どころか、触手の全てをもカビに食われている。
全身が丸ごと侵食されるのも時間の問題。
三番目の子セヤナーは、すでにそうなっていた。
この個体がセヤナーだったことを示すのは、微かに残ったシルエットだけ。
この子セヤナーが、セヤナーであるか、もしくはカビであるかは、もう判別がつかない。
一匹だけ正気を保てる状態である一番目の子セヤナーにとって、ここは生き地獄だった。
天敵からどうにか逃れ、ようやく得た安息の地だと思った場所が、餌も得られないどころか、カビの温床だったとは。
「モウ…… シニタイ…… ダレカ…… コロシテ……」
何度、そう願ったことか。
あらゆる存在から逃げ回ったことが仇となった。
死にたいと願っても、実行してくれる存在がどこにもいない。
最早、カビに食い尽くされる時を待つしかない。
子セヤナーの生き地獄は、その意識が失われるまで続いていく。
友好関係が、敵対関係に。
愛情が、憎悪に。
味方が、天敵に。
こうしたことは、己の過信や周囲への傲慢さ、あるいは横柄な言動といったものが引き金となる。
皆さんもどうか、お気をつけて。
風当たりが強い世界は、セヤナー以外にも牙を剥くかも知れない。
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