セヤナーを虐めたりいじめたりイジめたりしたい

その日は、各地で強風注意報が発令された。

町に居着いている野良セヤナーの一匹が、風下の方へと転がされていく。
この個体は、他のセヤナーよりも脂肪の付いた肥満個体だ。
「ヤアアアアアアア! イタイイイイイイ! メガマワルウウウウウウウ!」
コンクリートの地面が、セヤナーの粘液を剥ぎ取り、外気に晒された柔な表皮を削っていく。
更に、蹴られたボールのように転がされたことで、その三半規管は酔いと目眩に悲鳴を上げていた。
「アアアアアアア! ナンデエエエ! ナンデエエエエエエエ!」
他の個体より丸く、ほどよく体重がある体は転がりやすいようだ。
他の野良セヤナーから、餌を奪って楽をしていたことが仇となった。
丸々と太り、だらけ切った体ではどうすることもできない。
風に吹かれるがまま、転がっているしかない。
「オネガイイイイイ! ヤメテエエエエエ! ユルシテエエエエエ!」
聞き入れる存在は、どこにもいない。
そもそも、声自体が風の音に掻き消されている。
体力を消耗するだけの無意味な行動だ。
大きく破れた皮膚からは体液があふれ出し、地面に長い線を引く。
各内臓も終わりの見えない回転で傷付き、無視できないほどのダメージを負っていた。
「タスケテエ…… タスケテエ…… ダレカアアア……」
この損傷具合では、回転が終わったとしても、命は助からないだろう。
風に煽られたこと……否、この事態の原因となる行動が、今の状況をつくり出した。
最早、このセヤナーの末路は確定している。
「アッアッアッ…… ボオアッ!」
顔から建物の角に激突し、潰れた肉片と化す。
口も聞けなくなった残骸は脱色し、後は融けて干からびていくだけ。
強風の前では、傲慢なだけの生物など、物の数ではない。

他のセヤナーたちもまた、強風によって弄ばれていた。
猛烈に地を転がる個体もいれば、吹き飛ばされて壁や地面に打ち付けられる個体もいる。
中には、宙へ舞い上げられていく個体の姿もあった。
「ヤアアアアアア……ブッ!」
窓ガラスにぶつかり、顔面が潰されているセヤナーがいた。
建物の中にいた人々の反応は様々。
気味の悪い顔がますます酷くなった。
逆に、気持ち悪い面が多少はマシになったのではないか。
無視。
失笑。
草。
セヤナーの中には、激突の衝撃によって、中身が飛び出してしまった個体もいた。
「アアアアアアア……ゲエアッ!」
顔をしかめる者。
興味を持つ者。
変わらず無視する者。
笑みを深める者。
叢なる者。
いずれにせよ、屋内であれば被害はない。
例え窓ガラスにぶつかったとしても、セヤナーはスライム状の体だ。
この時代のガラス強度を破ることは、ほぼないであろう。

一方、屋外にいる人々はそうもいかない。
セヤナーが飛んできて服が汚れるといった問題は、レインコートや地下街の利用等で対処できる。
多少面倒ではあるかも知れないが、セヤナーによる被害よりはましだろう。
だが、それ以上に悩まされるのが、車の運転手だ。
車体の傷にはならないものの、汚れにはなる。
特にガラスやミラーを汚されては視界の妨げになってしまう。
そこで開発されたのが、セヤナー付着防止剤、セヤツルリである。
この製品は、セヤナーの粘液だけでなく、セヤナーの体液や内臓など、セヤナー由来の成分も撥く効果がある。
しかも、セヤナー以外の他生物には無害であるため、犬や猫といったペットを飼う家庭でも安心して使用できる。
更にこの製品は車用以外にも、建物用、服飾用、植物用、毛髪用、人肌用、さらにはペット用等も開発されている。
中には、こんな種類もある。
「ヤアアアアアア……アゲエッ!」
頭上から降ってきたセヤナーが直撃し、その残骸でレインコートのフードと眼鏡を汚す人物。
レインコートによって、着ていた衣服や内側に入れた持ち物は守られたが、眼鏡には体液が付着してしまった。
だが、この人物の眼鏡には、眼鏡用セヤツルリが施されているため、何の心配もない。
他のセヤツルリ同様、セヤナー関連の成分は一切シャットアウト。
眼鏡に傷を付けない素材でできているため、レンズや関節部分にも優しい。
まさに、快適な眼鏡ライフを守る一品だ。
このセヤツルリ、今後もラインナップが増えていくため、その動向にも注目が集まるだろう。
ちなみに、このセヤツルリはセヤナーが誤って摂取すると、粘液生成機能に不調を来し、腹足や触手、表皮などを著しく傷めるので、その点は注意が必要である。

強風の日には、ある風変わりな風景を見ることができる。
某所、山の麓。
突風に吹き飛ばされ、切り立った崖から落下する物体があった。
「ヤアアアアアア!」
それは、一匹の野生セヤナー。
足りなくなった餌の調達の途中だった。
強風で足元からすくい上げられるように、崖下へ放り出されたのだ。
勢いよく落ちていく先には、葉が枯れ落ちた樹木の枝。

その尖った先端が、柔らかい肉を貫いた。

「アアアアアアア!」
体を貫通する一撃は、セヤナーの息の根を止めるのに十分すぎるほどのものだった。
「ヤー……イ……タ……」
言い終える前に、事切れる。
しかし、
「ヤー……ヤー……」
「イ……タイ……」
声は途切れることなく、その樹から聞こえてくる。
その声の主は、枝に突き刺さっていたおびただしい数のセヤナー。
樹木の枝まで投げ出されていたのは、先ほどのセヤナーだけではなかったのだ。
「ヤ……ヤー……」
「ダ……レカ……」
「タ……スケ……」
こちらは幸か不幸か、枝に突き刺さってもまだ、絶命には至らなかったらしい。
そして、また一匹。
「ヤッ……ヤアアアア!」
さらにもう一体。
「アッ……アアアアアアア!」
次から次へと。
「ナンッ……アアアアアアア!」
死んでいく。
「ヤメッ……アアアアアアア!」
葉が全て枯れ落ち、暗褐色に統一された物寂しい樹が、瑞々しいピンク色に彩られる。
滴り落ちる同色の体液は、樹の外皮や根元を濡らし、潤していく。
融解し、液状になった残骸も遅からず養分となるだろう。
散り逝く命あれば、満たされる命もある。
こうして、自然は循環していくのだ。
その一連の様子を、離れた場所から静かに見つめる視線が複数。
この光景を眺め、緩やかに楽しむセ虐愛好家の人々だ。
こうした状況が自然とつくり出されることは、余り多くない。
だからこそ、今この瞬間を味わうために集まったのだ。
観客たちは皆、無言。
主役となるセヤナーたちの声と、それを呼び起こす風の音だけが辺りを包み込む。
また、一陣の風。
そして、待望の一声。
「アアアアアッ! ユルシテエエエエエ!」
許す者は、誰もいない。
「ギイヤアアアアアアア!」
この瞬間を、待ち望んでいたのだから。

翌日、とある平原に竜巻が起こるという注意情報があった。
そこは、セヤナーが多く生息する自然の多い環境だ。
天敵も少なく、餌となる果実が豊富に得られるため、気を張らずに生活できていた。
だが、今はそうではない。
セヤナーたちにとって、未知の脅威が現れた。
「アアアアアアア! アアアアアアア!」
「ナンデエエエエエエエ! ドウシテエエエエエエエ!」
荒れ狂い、旋回し、猛威を振るう風が、セヤナーたちを次々と飲み込む。
巻き込まれた個体は、猛烈な勢いで打ち上げられ、内部を駆け巡る砂や礫、木の残骸によって、体を一気に削られていく。
「アガガガガガガガ! イタイイイイイイイ!」
「ヤヤヤヤヤヤヤアアアアアアア!」
粘液は吹き飛び、表皮は剥がされ、その内側も瞬く間に切り刻まれる。
「ヤギャアッ……!」
セヤナーの倍以上の大きさの破片に衝突し、一瞬で絶命する個体もいた。
被害はセヤナーたち自身に留まらない。
棲処としていた茂みや木、穴などもまた、通過されるごとに壊されていく。
「アアアアアアア! ウチノ ウチガアアアアアア!」
「ヤアアアアアア! ヤメテエエエエエエエ!」
竜巻を生物と思い込み、セヤナーの数匹は必死に情けを乞う。
だが、自然現象にその叫びは通じない。
ただ吸い込まれ、掻き消されるだけ。
そして、叫んでいたセヤナーもまた飲まれていく。
「ウチッ……ヤアアアアアア! ガアアアアアア!」
「ヤメッ……ゲエアアアアアアア!」
同じように全身を掻きむしられ、粉々の残骸になっていった。
最早、多数のセヤナーたちにはどうすることもできない。
その個体数が減り続けるの見ているしかない。
そこへ、新たな個体が現れる。
「セーヤーナー……」
十メートル以上の大きさをした巨大個体だ。
この大騒動に気付き、近くの棲処からやってきたのだ。
「オネガイイイイイ! タスケテエエエエエ!」
生き残っていた通常個体の一匹が、必死の思いですがり付いた。
「エエデー……」
巨大個体はそう言うと、竜巻へ向かっていく。
そのまま立ち塞がり、威嚇する。
「ウーチーナー…… ウーチーナー……」
その声は巨大個体のものとあってか、簡単には消えなかった。
竜巻の勢いの前でも、その体が大きく震えるのみ。

しかし、それだけだ。
根本的解決にはならない。

竜巻と巨大個体が接触する。
「ウーチ……イッ……イッイッイイイイイイイ!」
強烈な威力を持って回り巡る、砂、礫、樹木。
それらが鑢のごとく巨大個体の粘液を吹き消し、表皮を削り、肉や内臓を細かく引き裂いていく。
「イイイタイイイイイイイ! ユルシテエエエエエエエ!」
先ほどの威勢は、呆気なく消え失せていた。
この平原で一番のセヤナーである巨大個体も、竜巻の前では無力だった。
「ゴメンナサイイイイイイイ! タスケテエエエエエエ……エ゙ッ!」
それが、巨大個体の最期となった。
粗く砕かれた目や口などの肉片が、乱雑に散らばっていく。
「アッアッ……アッアッ……」
巨大個体にすがっていた通常個体は、完全に心を打ち砕かれ脱色していた。
これ以上、頼れる存在はいない。
それを否応なく思い知らされた一匹もまた、猛威の中へと巻き込まれていく。
「アアアアアアア……アアア……アッ……」
全身に激しい痛みがあった。
だが、もう叫ぶ力すらも残っていない。
ほんの数秒で、息絶える。
残骸も砂に混ざって消えていった。
セヤナーの悲鳴が上がっては、風に融けて解れていく。
目立つピンク色が、徐々に平原の彩りから脱けていく。
この出来事によって、セヤナーたちは一日で棲処ごと根絶やしにされた。

その次の日。
竜巻は過ぎ去り、周囲は静寂に包まれている。
先日までセヤナーだった残骸は全て、すでに融解し切って、地面に染み込んでいた。
棲処としていた場所も、その面影を残さないほどに破壊され、かつてセヤナーたちが棲んでいたとは思えない光景になっている。
この平原に、セヤナーはもう一匹もいない。
しかし、生命が絶やされたわけではない。
見れば、ここを離れていた他生物たちが、次から次へと戻って来ている。
セヤナー以外の生物たちは、事前に危機を察知し、一時的に避難していたのだ。
植物もまた、全滅はしていない。
竜巻によって折れた木々も、まだ根元が残っている。
セヤナーの残骸が染み込み、栄養がばらまかれた地面から栄養を補給すれば、いずれ元の姿を取り戻すだろう。
平原を覆う草花も、それと同様だ。
中には、幸い無傷でいた植物もある。
ここに棲んでいた全てのセヤナーたちが、この世に戻ることはない。
だが、自然の生命たちが、それにめげるわけではない。
新たにつくり変えられた環境の中で、再び生きていくのである。


風は時に、大規模な破壊を起こす災害となる。
危険を察知し、対策をとらなければ、取り返しのつかないことになりかねない。
しかし同時に、風は空を行き交う生物たちを運び、風力発電といった人々の生活に役立つ発明のきっかけともなる。
風と上手く交流していけば、この世界を生きる上で、より良い暮らしを得ることができるだろう。

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