セヤナーを虐めたりいじめたりイジめたりしたい

 みなさんこんにちは。
 セヤナー研究部の琴葉葵です。
 今回は、セヤナーにとって重要な器官である髪飾りに関してちょっとした実験をしていきたいと思います。
 さて、セヤナーの髪飾りに関する事柄でもっとも有名なのは、

 髪飾りがないセヤナーは、他のセヤナーからセヤナーとして認識されない。
 故にセヤナーは、個体によって微妙に異なる髪飾りを視覚的に見分けることによって、他者を判別している。

 という部分だと思います。
 しかし私は、この説の後半部分の「髪飾りを視覚的に見分けることによって〜」という箇所には、少しばかり懐疑的です。
 セヤナーは本当に、視覚を頼りに他者を見分けているのでしょうか?
 今回は親子のセヤナーを何セットか用意したので、色々と試してみることにしましょう。

 では最初の実験です。
 まず、カラのボックスに親子のセヤナーを投入します。

「ナンヤココー?」
「オカーサン オナカスイター」

 次に子セヤナーの髪飾りをハサミでカットし、2匹がどうなるかを観察します。
 送りバントのような実験ですが、基礎は大切ですからね。
 チョキッ!

       ◆◇◆

「アアアアアアアア!! イタイイイイイ!! タスケテー!! オカーサーン!!」
「オ…オチ……ビ? ヤ?」

 子セヤナーが痛みにのたうち回っている。
 しかし親セヤナーはそれを見つめ、驚いた表情を浮かべるばかりだ。

「オカーサン! オカーサン!! タスケテー! イタイーー!!」
「オチ…? ダ……ダレヤオマエー!?」
「ヤァ!? ウチハ オカーサンノ コドモヤデー!?」
「ヤ…ヤァ!! ウチノ オチビガ オラヘンー!!」
「オカーサン! ウチハ ココヤデー!!」
「ドコヤー! オチビー!! ドコニイルンヤー!!」

 親セヤナーはキョロキョロとボックスの中を見回しながら叫ぶ。子セヤナーは涙を流しながら親セヤナーに自分がその子セヤナーであることを訴えかけるが、親セヤナーはまるで聞く耳を持っていない。

「オカーサン! ウチナー セヤナー ヤデー!!」

 しびれを切らした子セヤナーが親セヤナーの懐に飛び込む。
 しかし親セヤナーはそんな子セヤナーを身体の弾力を使って弾き返した。

「オマエ ジャマヤー!」
「ヤッ! イタイー! オカーサン……!」
「コノ バケモノー! サテハ オマエガ ウチノ オチビヲ…」

 親セヤナーが眼前の子セヤナーを敵視しはじめた瞬間だ。
 こうなるともう話は早い。

「オカーサン……?」
「オチビヲ…。オチビヲカエスンヤデー!!」
「ヤ、ヤァァ……。コワイー」
「ウーチーナー!! ウーチーナー!!」
「ヤァァァァ!! イタイー! ユルシテー! タスケテー!」

 威嚇行動による攻撃が開始され、ただでさえ致命的なダメージを受けていた子セヤナーがみるみるうちに弱っていく。

「バケモノー! バケモノー!」
「ナンデー ウチハ オカーサンノ……コ……」

 数分もしないうちに子セヤナーは完全に脱色融解。
 自らの親の手によって葬られてしまった。

       ◆◇◆

 はい!
 「ナメクジに塩」レベルに定番の流れでしたが、今回の事例から以下のことがわかりましたね。

1 髪飾りがないセヤナーは、他のセヤナーからセヤナーとして認識されない
2 髪飾りがないセヤナーは、他のセヤナーから敵意を向けられ、場合によっては殺害される

 「1」は当然ですが、今回のポイントは、これまで意外と見逃されがちだった「2」の部分にあるでしょう。
 いくら髪飾りがないからと言って、同じ空間にいた自分の子供を即座にバケモノ扱いは不自然というものです。
 そう考えた私は次の実験を行いました。

       ◆◇◆

 親子セヤナー(2セット目)をボックスの中に投入する。
 2匹のセヤナーは「ココドコー?」「ナンモナイナー」などと呑気な事を言っている。
 研究者は、そんな子セヤナーに白い雲のような泡をふりかけた。
 これはセヤナーにとって無害な石鹸の泡だが、今回重要なのはそこではない。
 今、この泡によって子セヤナーの髪飾りは、その一部が視覚的には隠れてしまっているのだ。
 
「ヤー ウチナー アワアワヤデー♪」
「ナンヤー? ココハ フロナンカー?」
「アワアワー♪」
「オチビー! ウチモ アワアワニ ナルデー♪」
「オカーサン イッショニ アワアワヤー♪」

 子セヤナーと親セヤナーは互いに身体をふれあわせ、どんどん泡を大きくしていく。
 もはや髪飾りは完全に見えなくなるほどに泡は大きく、濃くなっていったが、2匹のセヤナーは平和にじゃれ合い続けていた。

「ヤー! キモチエエナー」
「カラダ ツルツルー♪」
「ニンゲンサン アリガトナー」

       ◆◇◆

 なるほど。
 これは盲点でした。
 この実験からわかったことは、シンプルですがそれだけに興味深い事実です。
 それすなわち、

 セヤナーは、髪飾りが身体についてさえいれば、それが視覚的に見えない状態にあっても、それをセヤナーと認識することができる。

 ということです。
 あの後、帽子をかぶせるなど、他の手段で髪飾りを隠して実験しましたが結果は同じでした。
 つまり、セヤナーにとって髪飾りは「見える」ことが重要なのではなく「ついている」ことが重要なのです。
 もしかしたら、セヤナーの髪飾りからは、セヤナー同士でしか感じ取ることのできない波長のようなものが放出されているのかもしれません。
 それを踏まえて次の実験を行ってみましょう。

       ◆◇◆

 研究者は、泡まみれになった2匹のセヤナーを水で洗い、ボックスに戻した。
 そうしてから子セヤナーの髪飾りを、「針で刺して穴を開ける」「ハサミで切れ込みを入れる」などの手法を用いて20パーセントほど欠損させた。

「ヤァァァ! イタイイイイイ!!」
「オチビー! ダイジョウブカー!?」
「タスケテェー! オカーサンー!」
「オ、オチ……? オマエ ホントウニ ウチノオチビカー?」
「ヤ!? アタリマエヤロー! ウチハ オカアサンノ コドモヤデー!」
「セ セヤナー ゴメンナー ウチガ ドウカシテタワ……」

 親セヤナーは泣き叫ぶ子セヤナーをとりあえず受け入れ、自分にできることはないかオロオロしはじめた。
 しかしその様子はどこか半信半疑に見える。

「オカーサン! オカーサン! イタイー!!」
「セ セヤナー ダレカ……タスケテー オチビヲ タスケテー アオイー アオイー」

 親セヤナーは困惑しつつ、とりあえず周囲に助けを求めた。
 が、やはりというべきかそこにはいつもの必死さがない。
 発せられる鳴き声もどこか儀礼的というか棒読みだ。

 ここで研究者は、先程の手法を用いて更に20パーセントほど子セヤナーの髪飾りを傷つけた。

「イ……イタイイイイイイイッ!! ヤアアアアアアーーーー!!」
「オ オチビー! ダイジョウ…? …ヤ? オマエー ダレヤ……?」
「ヤ!? ウ ウチナー! セヤナー! ヤデエエエ!!」
「セヤナー カモ シレンガ オチビヤナイデー! オチビー! ドコヤー!!」
「オ、オカーサン!? ナンデー?」

 子セヤナーは涙をこぼしながら親セヤナーに擦り寄る。親セヤナーはそれを弾き返しこそしないが、完全に無視していた。
 この段階では、親セヤナーにとって子セヤナーは「セヤナーではあるかもしれないが、少なくとも自分の子供ではない」という認識らしい。
 研究者は、子セヤナーの髪飾りを更に20パーセントほど傷つけた。
 これで髪飾りは完全な状態の半分以下になった。
 すると、親セヤナーの態度が変わった。

「ナンヤ オマエー! キモチワルイー クルナー! クルナー!」
「ヤァ!? ヒドイー! オカァ、サン……」

 この時点から親セヤナーは、子セヤナーに嫌悪感を感じはじめたようだった。
 積極的に攻撃しようとはしていないが、明らかな拒絶の反応を示している。
 この後、更に20パーセントほど髪飾りを欠損させたところ、親セヤナーはついに攻撃行動にうつった。

「ウーチーナー! ウーチーナー!」
「ナ、ナンデー ……オカア…サ」

       ◆◇◆

 フム。
 これは興味深い結果ですね。
 髪飾りの欠損度はそのまま、セヤナーに対する認識のレベルを表しているということですか。
 これをまとめると、下記のようになります。

 髪飾りの、
 ・欠損度0パーセント
 セヤナーとして認識できる。自分の子が自分の子であるという個別認識も問題なくできる状態。

 ・欠損度20パーセント
 セヤナーとして認識はするが、いまひとつ確信が持てず不安な様子を見せる。一応は個別認識も可能。

 ・欠損度40パーセント
 「セヤナーのようなもの」「セヤナーかもしれないもの」として捉えている模様。無論、個別認識は不可能。

 ・欠損度60パーセント
 セヤナーとして認識できず、小程度の嫌悪感を示す。

・欠損度80パーセント以上
 セヤナーとして認識できず、中程度以上の嫌悪感を示し、場合によっては殺害行動に移る。

 ふーむ。
 予想通りと言えば予想通りなのですが、セヤナーとしての認識率が下がるにつれ、嫌悪感のほうは増しているのがやはり不思議ではありますね。
 なぜ髪飾りがないだけで、嫌悪し、排除までする必要があるのか。
 好感度ゼロを超えてマイナスにまで突き進んでしまう極端さ……。
 この結果を先程の「髪飾りから波長が出ているのかもしれない」という仮設に当てはめて考えれば、欠損した髪飾りからは、セヤナーにとって「嫌な波長」でも出ているのでしょうか?
 そう考えた私は、次の実験を行うことにしました。

       ◆◇◆

 親セヤナーと子セヤナーを、それぞれ別のボックスに入れる。
 このボックスを互いに100キロメートル以上離れた場所に設置する。
 こうすることで、「波長」の干渉を物理的にシャットアウトすることが狙いだ。
 ボックスの中にはカメラとモニタを配置し、お互いの姿が見えるテレビ通話の状態を作る。

「ヤ? オチビー?」
「ヤデー オカーサン…?」

 セヤナーの親子は、モニタに映ったそれぞれの姿を見て、最初は怪訝そうな声をあげた。
 しかし数秒見つめ合うと、それが親子であると確信したようだ。

「ヤー! オカーサン! マタアエタ ヤデー!」
「オチビー! ゲンキカー? シンパイシトッタデー!」

 移動する際に引き離されたということもあり、再会を喜んでいる風に見える。
 ここで研究者は先程と同じように、子セヤナーの髪飾りを20パーセントほど傷つけた。

「ヤアアアアアアアァァァァ!! イタi(略」
「オチビィィィ!! オマエー! ウチノ オチビニ ナニスルンヤー!!」

 親セヤナーは、苦しむ子セヤナーを見て怒りに身を震わせた。
 モニタに顔をくっつけて喚いている。
 どうやらまだ自分の子であるという確信があるらしい。
 しばらく観察していると、怒りから一転、親セヤナーは泣きはじめた。

「タノムー オチビヲ タスケテー ヤァ…ニンゲンサン……オネガイー オネガイヤー…… ウチハ ドウナッテモ エエカラ……オチビヲ…イジメナイデー」

 もうすっかり日も落ちていた。
 ここで研究者は今日がコマンドーの再放送日だという事を思い出したので、実験を早めに切り上げるため子セヤナーの髪飾りを40パーセントほど傷つけた。
 これで、合計60パーセントが欠損したことになる。
 すると親セヤナーの態度が変わった。
 さきほどまでの涙はどこへやら、泣き叫ぶ我が子を見ながら親セヤナーは淡々と言った。

「ナンヤ カワイソヤナー ニンゲンサンー タスケテアゲタッタラ ドウヤネンー」

       ◆◇◆

 はい!
 ということで今回も貴重なデータがとれましたね。
 まとめるとこうなります。

 髪飾りの、
 ・欠損度0パーセント(ただし波長が干渉しない状態)
 セヤナーとして認識できる。数秒のラグはあったが個別認識も問題なし。

 ・欠損度20パーセント(ただし波長が干渉しない状態)
 セヤナーとして認識でき、個別認識も可能。

 ・欠損度60パーセント(ただし波長が干渉しない状態)
 セヤナーとして認識できるが、個別認識は不可能。

 少しはしょってしまいましたが、これは良いデータがとれましたね。
 要するにセヤナーは、「波長」と「視覚」の両方を使って他者を見分けているのでしょう。
 そして今回の実験で注目すべき箇所は、髪飾りの欠損度が上がっていっても親セヤナーは「嫌悪感」を感じていない、という部分です。
 欠損度が半分を超えても、自分の子であるという個別認識こそ不可能になりましたが、ちゃんとセヤナーとして認識しており、他人事風ではあったものの心配する様子も見せていました。
 このことによって、次の仮説を導き出すことができます。

 欠損した髪飾りからは、セヤナーを不快にさせる波長が放出されており、それは欠損の度合いが高まるほどに強くなる。

 この仮説を正しいものとすれば、髪飾りがないセヤナーを嫌悪し攻撃する個体が多い事にも納得がいきますね。
 問題は、なぜこのような「不快波長」を発する機能がセヤナーの身体に組み込まれているのかということですが……。それに関しては次なる研究者に期待することとしましょう。

 というわけで、今回の実験、いかがでしたでしょうか?
 実験の過程で多くのセヤナーが犠牲になってしまいましたが、私はセヤナーが嫌いなのではありません。
 この先さらに研究が進み、波長の解析や再現ができるようになれば、髪飾りをなくしたセヤナーに義髪飾り――人間で言うところの義手や義足のようなもの――を作ってあげることも可能かと思います。
 反対に、駆除系のグッズに応用しようと思えばそれも実現できるでしょう。
 ようは使い方なのです。
 セヤナーは多様性のある動物なので、彼女たちの全てを理解することはできないかもしれません。
 今回の実験結果がまるで当てはまらないセヤナー達も多く存在することでしょう。
 それでも、私達は前に進むことができるのです。
 あなたがセヤナーを愛する限り……。


 終了

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