セヤナー虐めwiki - 泉質による副作用
一般的に、セヤナーは温泉との相性が良いと認知されている。
温泉熱でセヤナーの傷が癒される等、理由は様々。
しかし温泉の種類、いわゆる泉質によって、セヤナーに悪影響を及ぼすものも存在する。
今回はそれらのケースをいくつかご覧いただきたい。


ここは、とある天然温泉。
自然豊かな環境に囲まれており、周辺に生息する野生生物もここを利用する。
「ダレモー オランー」
そこに親一匹と子二匹の野生セヤナーが現れる。
以前、親セヤナーが餌を集めていた際、この場所で他の野生生物たちが湯に浸かってくつろぐ姿を見かけたのだ。
その時は、子セヤナーたちを連れておらず、他生物にも捕食される恐れがあったため、近寄らずに引き返した。
しかし今、彼らの姿は一つも見当たらない。
「ウチラノヤー!」
大きな鳴き声を上げながら、親セヤナーは何度も飛び跳ねる。
「ウチラノー!」
「ヤー! ヤー!」
子セヤナーたちもつられてはしゃぎ出す。
野生生物として、余りにも無警戒な姿だが、これもセヤナーの特徴だ。
感情が表に出やすく、隠し事が苦手。
加えて、我儘で楽観的な気質のため、無用なトラブルを招きやすい。
喜びのまま騒ぎ出してしまったのも、セヤナーのそうした性格からである。
幸い、今の騒ぎを知った生物はいない。
それを知ってか知らずか、セヤナーたちはそのまま湯に飛び込んでいく。
水面を小さく波打たせ、三匹は緩やかに浮かび上がる。
「ヌクイー」
「シアワセー」
「ヤー」
ここまで温泉でのマナー違反が過ぎる行動ばかりだったが、このセヤナーたちは一応野生個体であり、人間界での作法を全く知らないことを追記しよう。
……野生における作法も、まるでなっていないが。
二匹のうち、小さい方の子セヤナーは好奇心を隠せないのか、温泉の中で体を揺らして漂う。
「ヤー ヤー ヤデー!」
陸棲個体であるため、水上では上手く動けない。
だが、自身の体が普段とは違うリズムで揺れるのが楽しいのか、喜んだままだ。
「ヤーデー! ヤーデー!」
もう一匹の子も、つられて笑顔になる。
「タノシソー! ウチモー!」
親セヤナーは、その様子を微笑ましく見ていた。
「オチビタチー ゲンキー」
こうした幸せを沢山得て、我が子たちには大きく育ってほしい。
そのために、自分はいつまでも我が子たちを見守ろう。
親セヤナーは、そう心から思った。

しかし、幸せな時間は長く続かない。

「ヤー? ヤッ! ヤッ!」
水面で揺れていた子セヤナーが、突然小刻みに震え出した。
表情もどこか不安気だ。
「オチビー? ドウシター?」
その顔を見て、親セヤナーが疑問符を浮かべる。
だが、子セヤナーは答えない。
否、答えられないのだ。
その体は徐々に縮み、萎びていく。
「ヤ……ヤー……」
「オ オチビー!」
親セヤナーは慌てて駆け寄ろうとするが、慣れない水上ではほとんど移動できない。
「ナンデー!? ナンデー!?」
それを知る由もない親セヤナーは、ただ暴れるように身をよじるしかない。
しかし、それは逆効果だった。
「ヤッ……! ヤアアアア!」
暴れていたことで水面が波打ち、湯が顔や体に被さってくる。
それと同時に、体から水分が抜けていくような感覚があった。
実はこの温泉、塩分が含まれた湯が湧き出る塩化物泉だったのだ。
多量の塩分は、体の九割以上が水分でできているセヤナーにとって、その水分を奪う有害な物だ。
ましてや塩化物泉といった、塩の溶け込んだ水溶液の中は、液体を吸収しやすいセヤナーの体にとって非常に良くない環境である。
「アッアッ…… オカー……サン……」
近くにいたもう一匹の子も、体の水分を失いつつあった。
その上、先ほど親セヤナーが起こした波を浴びたせいか、その弱り具合が目に見えて分かる。
「オッ……オチビタチー! シッカリー!」
親セヤナーにはその原因が分からないのか、ますます慌て、より一層大きくもがき出す。
それが逆効果であるとも知らずに。
「ヤ……アア……」
「オカ……サ……」
水分の抜け切った子セヤナーたちは限界を超えるほど縮み、緩やかに目を閉じる。
「アッ……! アアッ……」
子セヤナーの現状を目にし、親セヤナーはとうとう固まってしまった。
気付けば親セヤナーの体も、全身の渇きに悲鳴を上げている。
そのままでいれば、脱水症状を起こして干からびるだろう。
しかし、親セヤナーはもう動けない。
体力が底を尽きたのもあるが、子セヤナーの今の姿を目の当たりにして、生きる気力も失った。
後は、このまま終わりを待つのみ。
「オ……チ…… ゴメ……」
その瞬間は、すぐに訪れる。
次の来客である、数頭のサルがやって来たのだ。
セヤナーたちとは違い、静かに入浴する。
途中で三匹のセヤナーを全て踏みつけ、底の所で押し潰してしまったが、気が付く様子はない。
暖をとりに来たサルたちを迎えるのは、仄かにピンク色に彩られた温泉である。

セヤナーと相性が良くない温泉は、その場所だけではない。
次は、ある広大な天然温泉での出来事。
「ヤー……」
一匹の巨大な野生セヤナーが、その光景に目を輝かせている。
いつもは自分が入れる大きさの温泉を見つけられず、他生物を尻目に残念な思いをし続けてきた。
しかし今、念願の広い温泉が目の前にある。
入る以外の選択肢はなかった。
躊躇うことなく湯に体を浸していく。
「ヌクイー……」
その暖かさに感動すら覚えていた。
長い月日を経て、ようやく温泉に入ることができた。
自身の巨大な体を疎ましいと感じたこともあったが、それも忘れてリラックスする。
とても良い気持ちだ。
まるで全身がとろけるような感覚。
こうした場所があって良かったと、巨大セヤナーはそう心から思えた。
しかし、その思考を遮る存在が、次々と姿を見せる。
野生のシカ、複数頭。
温泉に浸る巨大セヤナーの前に並び、静かに視線を向けている。
そのまま動かないシカたちの思考は読めない。
だが、巨大セヤナーは、それが敵対行為と認識した。
自身をここから追い払い、温泉を楽しむつもりだろう、と巨大セヤナーは思ったのだ。
「ウーチーナー…… ウーチーナー……」
そうはさせまいと、セヤナー特有の体を振動させて波打たせる威嚇行動をとる。
だが、シカたちは無反応。
その目は巨大セヤナーの体を凝視したまま動かない。
それに気付かない巨大セヤナーはなおも威嚇を続ける。

異変は、そうした中で起きた。

「ウーチ……イッ……イタイイイイイ!」
突如、巨大セヤナーの全身を焼けるような痛みが襲う。
「ナ……ナンデエエエエエ!」
温泉に入っていただけで、何故?
その疑問に答えられる者は、そこにはいない。
この温泉の正体は、酸性泉。
その名の通り、高い酸性度の温泉である。
柑橘類等、酸性の物質の影響で体が溶けるセヤナーがこの湯に入れば、同様の現象が起こる。
巨大セヤナーであっても、それは例外ではない。
また、吸水率の高いセヤナーの体は、その酸性の湯を体内に取り込んでしまう。
表皮のみならず、内臓をも火で炙るような苦痛に、巨大セヤナーは思わず叫びを上げ、転げ回る。
今度は威嚇ではなく、痛みで体を震わせた。
だが、それらの行動は逆効果だった。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙…… ア゙ア゙ア゙……」
より激しく体を動かすことで、先ほど以上に多量の酸性の湯を吸収してしまった。
全身は溶け出した蝋燭のように、元の形を保てなくなっていた。
痛覚も、すでに麻痺し始めている。
こうなってしまえば、全身が崩壊するのは時間の問題だ。
酸性泉の湯は、鮮明なピンク色に染まり始めている。
色合いが段々濃くなるにつれ、巨大セヤナーの体は湯と一体化し、熱を帯びた液体となっていく。
「ヤ゙ア゙ア゙……ア゙ア……」
一連の流れを静観していたシカたちが、それを見るや否や動き始めた。
占領されていた温泉に、ようやく入れるようになったからだ。
湯と同化した巨大セヤナーなどお構い無しといった様子で、足を進めていく。
「ヤ゙……ヤ゙メ゙……」
巨大セヤナーの呻きは、シカの一頭に踏みつけられ、その顔面ごと砕け散った。
シカの群れを迎え入れる温泉の湯は、滑らかで穏やかな温もりを帯びていた。

セヤナーの体と相性の良くない温泉に関して、更にもう一件の情報がある。
これは、ある野生セヤナーの群れに起きた出来事。
「ミンナー ツイタデー」
群れのリーダーである、一回り大きなセヤナーが、後に続くセヤナーたちに声をかける。
「ヤッター」
「ヌクイトコ ツイター」
「ヤーデー」
先ほどまで息を切らしていたのが嘘のように、群れのセヤナーたちは大喜びする。
「ヤー! ヤデー!」
「オチビー ヨカッタナー」
中には、親子連れのセヤナーもいる。
そうした群れの仲間たちの嬉しそうな姿を見て、リーダーセヤナーも思わず顔を綻ばせる。
ここは、とある平原に湧いた天然温泉。
ここを利用する他生物に隠れてついていき、場所を特定したのだ。
仲間たちを喜ばせるためにここまで案内したリーダーセヤナーは、願いが叶ったと一緒に喜ぶ。
群れのセヤナーたちは、次々に温泉の中へと入っていく。
「ヌクイー」
「ヤー……」
「セヤナー……」
温泉の湯は、やはり暖かい。
仲間たちもまた、リーダーについてきて良かったと感慨に浸る。
「ヤー! セヤナー シアワセー!」
子セヤナーもまた、成セヤナーたちと同意見。
体を元気良く揺らし、喜びを表現する。
「リーダー アリガトナー」
そうした我が子の姿を見て、親たちは次々とリーダーに感謝を口にする。
「ヤー……」
ここまで仲間たちと来られて本当に良かったと、リーダーは心からそう思った。
一匹も欠けることなく、群れ全匹でこの場所に集まり、喜びを分かち合える。
群れを率いるものとして、これ以上の幸せはない。
喜びで、身も心もはちきれそうだ。

ふと、何かが弾ける音が聞こえた。

「イタイイイイイ!」
直後、鋭い悲鳴が上がった。
「ヤッ!?」
「ナッ ナンヤー!?」
仲間たちが皆、反射的にそちらを向く。
そこには、体に穴が開き、体液を流す群れの一匹の姿があった。
「ヤッ……ヤアアアアアア!」
その一匹は、たまらず大声で鳴き出す。
それに反応してか、体の別の箇所が弾けるように傷ついていく。
よく見れば、そのセヤナーの全身にいくつもの気泡が生じていた。
それらは何かの衝撃を受ける度に、連鎖して割れていく。
「アアアアアアア! イタイイイイイイイ!」
その最期は、呆気ないとしか言い様がなかった。
文字通り泡のごとく、体液を撒き散らしながら破裂したのだから。
「ヤッ……! ヤアアアアアア!」
「ナンデエエエエエ! ナンデエエエエエエエ!」
「ドウシテエエエエエエエ! コワイイイイイイイ!」
恐怖で叫び出す他の仲間たちの体にも、気泡は次々と浮かび上がり、弾けていく。
恐怖と苦痛の叫びが、不規則に入り乱れる。
「ヤアッ! ヤアッ! ヤアアアアアア!」
「ヒギャアアアアアアア! ヤメテエエエエエエエ!」
「ユルシテエエエエエエエ! ユルッ……!」
その中には、気泡が一気に弾けて、瞬く間に息絶えるセヤナーもいた。
「アッ…… アッ…… アアアアア……」
群れのリーダーは困惑した。
原因がまるで分からない。
この事態は全く予想外で、経験にもない。
こうしたことが何故起きるのか、それを知る存在はこの場所にはいない。
その温泉の種類は、二酸化炭素泉。
発生する炭酸ガスが湯に溶け込んでおり、時に炭酸の泡が形成される性質を持つ。
その特徴から、炭酸泉とも呼ばれる。
この泉質もまた、セヤナーにとって致命傷となり得るのは、今この場所にいる群れが証明している。
水分を吸収しやすいセヤナーの体中で、炭酸の泡が弾け、表皮や内臓を突き破るのだ。
「ヤ…… リー……ダー……」
リーダーセヤナーが声の方を振り向けば、そこには全身の泡が割れ、絶えず体液を流すセヤナーの親子がいた。
その親の方が、必死にリーダーへ触手を伸ばす。
そこに抱えられたのは、体内の泡が割れたことで言葉も発することもできない子セヤナー。
「オネ……ガイー……」
親セヤナーは、子セヤナーよりもひどく傷ついていた。
意識も朦朧としている。
もう助からないことは明白だ。
だからこそ我が子だけでも託そうとしているのだ。
震える触手で、子セヤナーを受け取ろうとするリーダーセヤナー。
だが、現実は無慈悲。
受け取る直前で、子セヤナーの体が急激に膨張し、粉々に破裂する。
「アッ……ヤー……?」
リーダーは呆然とした。
「オ……チ……」
親セヤナーは涙を流し、後を追うように破裂する。
群れはもう、リーダーだった一匹だけになっていた。
周囲に漂うのは、セヤナーだった残骸だけ。
「アッ……アッ……!」
その中に浮かぶ目の一つと視線があった。
その目は何も語れない。
もう、そこに命はないのだから。
しかし、元の持ち主は、最期まで苦しんだであろう。
「アッ……! アアアアアッ……! ヤアアアアアア! ヤアアアアアア!」
一匹だけになったセヤナーは、思わず叫び出す。
頭の中が真っ白だ。
もう何も見たくない、考えたくない。
「ア゙ッ! ……ア゙……ア゙ア゙」
その願いは、叶った。
セヤナーの臓器は叫びに耐えきれず、パンクしたのだ。
気付けば、体中におびただしい傷がある。
腹足はすでに使い物にならないほど、傷んでいる。
触手もいつの間にか一本も動かせない。
両目からは体液が涙のようにあふれ出す。
最後に残ったセヤナーの命も、尽きる時が来た。
「ミ……ンナ……ゴメン……」
そして、破裂音と共に絶命する。
十数分前までセヤナーがいた場所に、もうセヤナーはいない。
そこにあるのは、徐々に溶けゆく残骸たちと、赤とピンクの入り交じる湯だけだ。


今回紹介するケースは、以上となる。
ここではセヤナーにとっての副作用を解説したが、温泉の副作用は人間にも存在する。
詳細は、温泉を研究する方々の各ホームページにて掲載されているので、是非一度ご覧いただきたい。
また、実際に温泉に入浴している時に、もし体調が優れなくなったり、体に何らかの異変が出た際は入浴を中断し、無理をせずに休憩をとったり、周囲の方々への相談をおすすめする。
いずれにせよ、温泉観光の旅は、何事もなく無事に帰宅できることが一番である。
それでは、あなたがたの旅行が良いものとなることをお祈り申し上げる。

追記事項として、もう一つ解説したい。
何らかの要因でセヤナーが溶解し、温泉に混ざった際、そのセヤナーだった物が内包していた各栄養素は温泉の成分になる。
また、化合されたセヤナーだった物質からは、感染能力などの特殊能力は一切発揮されないことが、複数の研究で判明している。
その他の新たな事実は、後の研究で明らかになるだろう。