セヤナー虐めwiki - セヤナーはおうちに帰りたい
あるマンションの1階の窓の内から外の公園を見つめる1匹のセヤナーがいた。
そのセヤナーはそのペット可のマンションで一人暮らしをする飼い主に飼われている。
飼い主が仕事で家を留守にする間、与えられたおもちゃで遊んだり飼い主がいつもセットしていってくれるお気に入りのDVDを見たりしてセヤナーは飼い主の帰りを待つ毎日。
しかしやはり一匹で遊ぶのは寂しい。
そんな寂しさが増してくる夕方が近くなった頃、窓の外から聞こえるようになる子供達の声に惹かれて外の公園で遊ぶ姿を見つめるようになったのである。

そこには一人で遊ぶだけでは得られない変化があった。
子供達は毎日違う遊び、違う展開を見せてくれるし、散歩をしている犬や飼い主と遊ぶ他の飼いセヤナーの姿など、部屋の中だけでは知りえないことをたくさん見ることができた。
そうして毎日外を見つめるセヤナーはある日ある光景を目にする。

いつものように外を眺めるセヤナーの側にある公園に植えられた木、そこにあるものが留まっているのが見えた。
それを見つけたセヤナーは目を輝かせとてもはしゃいだ様子を見せる。

「エビフライー!エビフライー!」

そう、野生のエビフライである。
セヤナーはある飼いセヤナーが産んだ子を今の飼い主が引き取ったのだが、親セヤナーがいた家では引き取られるまで一ヶ月ほどではあるが毎日のようにエビフライが出てきていた。
セヤナーは今の飼い主にも当然のようにエビフライを要求し、出されたセヤナーフードにはなかなか手を付けなかった。
そうして困った飼い主がネットを使い得た情報は『エビフライをあげすぎると他の物を食べなくなってわがままになる』『野生のセヤナーは一生で一度もエビフライを食べないこともよくあるからあげなくてもよい』などであった。
躾をきっちりしないと後悔することになると考えた飼い主は断固としてセヤナーフードを食べるように言いエビフライをこれまで与えることはなかったのである。
そんなセヤナーの前に現れた野生のエビフライ、セヤナーは食べたくて食べたくて仕方なかった。
だが窓は開けられない、エビフライを前に諦めることしかできないセヤナーの前にさらに現れたものがいた。

「セーヤ・・・セーヤ・・・」
3匹のセヤナーが木を取り囲むようにそっと近づいてきていたのだ。
木の側まで寄るとセヤナー達はぐっと身を縮ませ1匹のセヤナーがエビフライに飛掛る。
セヤナー達の接近に気づかなかったエビフライは慌てて飛び立とうとするもセヤナーの体に当たり落ちてしまう。
そして残りの2匹が落ちたエビフライに飛掛り1匹が退路を塞ぎ1匹がエビフライの尻尾を齧りとって決着はついた。
「ウマイー!ウマイー!」
尻尾を齧ったセヤナーは幸せそうに言う。
残った2匹も順番にたべていき尻尾を齧ったセヤナーも残った身の部分を食べる。
「ウマイイイイイイイイイイイ!!」
「ヤデー♪ヤデー♪」
実においしそうに仲良くエビフライを食べる3匹のセヤナーをセヤナーはきらきらとした目で見ていた。




「カイヌシサンー セヤナー オソトデタイー」
「危ないからダメだよ」
「エビフライー タベタイー」
「ご飯ちゃんとあげてるでしょ、わがまま言わない」

そんなやり取りがあの3匹のセヤナーを見た日から始まった。
セヤナーは外で他のセヤナーと仲良くなること、そしてセヤナー達で自由にエビフライを食べることに憧れたのだ。
しかし飼い主は外に出るのもエビフライを食べるのもダメだという。
セヤナーは飼い主のことは好きだが外もエビフライもダメだということについてどうしてなのか理解できなかった。
だからセヤナーは勝手に外に出ることにした、友達を作りエビフライを食べるために。

「セヤナー イエデー ヤデー」

セヤナーは家出の意味をよくわかっていない、テレビで家の人と喧嘩して外に出ていくことをそう言っていた、ただそれだけである。

数日後、飼い主が仕事に出た後セヤナーは玄関に来ていた。
外に出る決意をし、外に出る経路を探して新聞や広告が外から入ってくる郵便受けに目を付けたのだ。
器用に郵便受けに張り付いて蓋を開けるとお気に入りのカブトムシのおもちゃを抱えてきて郵便受けの箱に入る。
外に憧れを抱いているが初めての外はやっぱりちょっと不安だ、だからいつも一緒にお留守番していたカブトムシを持ってきたのだ。
そして箱の中で姿勢を整えるとポスト口へとまずはカブトムシを通そうとする。
かつんかつんとカブトムシは角を外に出したところで引っかかり外に出せない。
「カブトムシー オルスバンー ヤデー」
しばらく悪戦苦闘したあとしょんぼりとした様子で郵便受けの中にカブトムシをそっとおろす。
「イッテキマスー ヤデー」
そうカブトムシに告げると体を柔らかく変形させてポスト口から外へと出たのであった。



「ジメンー ザラザラー」
「オソトー ヒロイー」
「エビフライー ドコー?」
外に出たセヤナーは新鮮な感覚にきょろきょろしつつ公園に移動する。
「ダレモー イナイー」
ちょうど学校も1時間目が終わるといった朝の慌ただしさも落ち着いた頃で公園には誰もいない。
しばらく公園でウロウロとした後他のセヤナーもエビフライも見つからなかったセヤナーは他の場所を探すことにする。
「ンー コッチー」
公園の前で左右を見回した後適当に左へ行く、セヤナーの知らない場所、セヤナーは冒険心が湧いてきてワクワクしていた。

夕方、空が赤く染まりもうすぐ日も暮れる頃。
セヤナーはあっちこっちへふらふらと移動しいろんなものに興味を示したが他のセヤナーもエビフライも発見することはできなかった。
お昼ごはんも食べていないお腹がグーとなる。
「セヤナー オウチカエルー」
そうしてきょろきょろと辺りを見回して、
「オウチー ドコー?」
と言った。



それから二日がたった、セヤナーは道に迷いあっちへこっちへ家を探して彷徨っている。
お腹もぺこぺこ、喉も乾いた、前日公園の水道に溜まっていた少しの水を飲んだだけである、そこに
「ゴハンーゴハンー」
という声が聞こえてきた。
セヤナーがその声の方へ向かうとゴミ捨て場でガサガサとビニール袋を漁るセヤナーの姿があった。
「ヤデーヤデー」
ゴミ袋を漁るセヤナーに声をかける。
「ヤ?」
いぶかしげにこちらを見るセヤナーに、
「ウチナー オナカー スイター ゴハンー タベタイー」
そう言うと、途端に声をかけられたセヤナーは不機嫌そうになり、
「ウ-チ-ナーウ-チ-ナー」
と威嚇して来る。
「ヤ!?ドウシテー ドウシテー」
セヤナーは訳が分からない、セヤナーは最初から飼われていて野良というものを、飼い主のいない、捨てられたセヤナー達のことを理解していないのだ。
先日の3匹のエビフライを食べていた野良セヤナー達も飼い主がいて一人で外に出て友達と会ってエビフライを捕まえ夜になれば帰るのだとそう思っていたのだ。
だから威嚇される理由が分からない。
「コワイー!セヤナー ニゲルー!」
こうしてセヤナーは外の世界のことを知っていく。


更に二日たちお腹が空いたセヤナーは先のセヤナーがゴハンーといいながら袋を漁っていたのを思い出し公園のゴミ箱を真似して漁りわずかな食糧を得た、とても臭かったしまずかった。
ごみ袋を漁っているセヤナーを見かけた、近づくか悩んでいるとカラスが飛んできてそのセヤナーを啄ばみ始めた、慌てて近くの植木の側に隠れて最後まで眺めた。外がとても危険であることを知れた、早く気付けて運が良かった。
公園でお弁当を食べるサラリーマンを眺めてお腹を鳴らしているとエビフライの尻尾をくれた、とても、とても美味しかった。
またお腹が空いてゴミ袋を漁っていると5匹のセヤナーが現れた、ここは自分たちの縄張りだと、ルールがあると言われた。



5匹のセヤナー達はセヤナーがとてもお腹を空かせていることに気づき少しだけご飯を分けてくれた。

「オマエー ステラレタンカー」

そうセヤナー達のリーダーが言う。

「ヤ!?チガウー!セヤナー イエデー!」

思わぬ言葉に反応してしまうセヤナー。

「ヤー?」

セヤナー達は訳が分からないといった様子である。

「カイヌシサンー エビフライー クレナイー ダカラー イエデー」

分からないといった様子のセヤナー達にそう説明する、野良セヤナー達にはわざわざ野良になってエビフライを食べようとする意味がわからない、野良セヤナーがエビフライにありつけるなんて滅多にないのだ。だから野良セヤナー達の結論はやっぱり捨てられたのだろうである。

「オマエー ステラレター」
「チガウー!チガウー!」

違うと主張するもセヤナー達は続ける。

「カイヌシサンー ムカエニー コナイー」
「ウチモー ステラレター」
「ウチモー」
「カイヌシサンー セヤナー オイテニゲター」

自分たちも捨てられたのだというセヤナー達に自分は捨てられていないと必死で言う。

「チガウー!チガウー!セヤナー ステラレテ ナイー!セヤナー マイゴー!オウチニ カエリタイー!」

けれど野良セヤナー達にとってそんな主張は何回も見てきたものであった、自分が捨てられたことをなかなか認めないセヤナーはたくさんいる。

「ムリヤデー」
「セヤナータチ カエレナイー」
「ヤデーヤデー」
「ヤー!ヤー!」
「ウチラー ナカマー ヤデー」

セヤナーは自分が捨てられたとは思わなかった、けれど一人で彷徨い続けるのは限界だった。だからその言葉にすがりその群れに入るしかなかった。




そうして2ヶ月が、家を出てから3ヶ月弱が過ぎた。
群れに入ってからは大変だが飢えることはなかったし住処に困ることもなかった。
食べ物を得られる場所を情報交換し食べ物を共有して食いっぱぐれることを回避した。
1匹で彷徨っていたときは軽く水を浴びるだけしかできず薄汚れていたが群れに入ってお互いの体を洗いあい清潔を保てるようになった。
あまり汚れていると人間からご飯を貰えることがなくなるし仲間からも邪険にされるのを知っているのだ。
セヤナーは野良としてそこそこ安定した生活を手に入れた。



だが、それはすぐに終わってしまう。
公園のごみを漁っているときに子供に見つかったのだ。
子供はきたねーと嘲りセヤナーを棒でつついてくる。
「ヤメテー ユルシテー!」
セヤナーは怯えて許しを請うことしかできない、けれどそんなセヤナーに気を良くしたのか更に子供は髪飾りを掴んで持ち上げる。
「ヤアアアアアアアアア ユルシテー!ユルシテー!」
更にパニックになるセヤナーをゆさゆさと揺する子供。
「アッ..アッ..アッ...アッアッ..アッ」
そしてベチャリとセヤナーが落ちた。
「ヤアアアアアアアアアアアアアア!?!?イタイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」
セヤナーは地面に落ちたが髪飾りは子供の手の中にあった。
「イタイイイイイイイイイイイイイイ!!タスケテー!!イタイイイイイイイイイ!!」
痛みに悶え苦しむセヤナーの劇的な反応に子供は逃げていく、髪飾りはセヤナーにとって個体認識にもセヤナー達の特殊な体の調整にも必要な重要な器官である。
それがちぎれた痛みは相当なものでありセヤナーは近くの植え込みに逃げ込むと一晩をそこで痛みと恐怖に震えて過ごしてから仲間の元へ帰るのであった。

「オマエー ダレヤー!?」
「ウーチーナー ウーチーナー」
セヤナーが群れの住処に戻ると仲間たちはセヤナーを威嚇し追い出そうとしてくる。
「ウチヤデー!?ドウシテー!?」
セヤナーが失った髪飾りは個体認識の役割がある、つまりそれを失ったセヤナーはセヤナー達にとってどこの誰なのかわからないのだ。
「ウーチーナー ウーチーナー」
「デテケー デテケー」
自分たちの巣に侵入されたセヤナーは威嚇し追い出そうとする。
「ヤー!ウチノー ウチー!ドウシテー!?ドウシテー!?」
更に髪飾りのない個体というのは髪飾りを失うことにより運動能力が落ち、病気の温床にもなりやすいためセヤナー達は本能的に排除に回る習性がある。
「ウーチーナー!ウーチーナー!」
なかなか出て行かないセヤナーに対しセヤナー達は攻撃を始める。
「ヤー!イタイー!ユルシテー!ユルシテー!セヤナー ニゲルー!」
こうしてセヤナーは群れを追われ、新たな仲間を作ることもできなくなりまた彷徨い歩く日々に戻るのであった。




髪飾りを失って3ヶ月がたった、家を出てもう半年もうすぐ冷え込み始める時期になる。
セヤナーは動きの鈍くなった体で彷徨い、ごみを漁り、同族からの攻撃に孤独に一人で耐え自分の家を探した。
家に帰ることができれば元の生活に戻れる。
エビフライは食べれなくても美味しいとはいえずともまずくはないセヤナーフードを毎日欠かさず食べられる。
1日中ごみを探して漁らなくても大好きなカブトムシのおもちゃや小さな子供用滑り台で遊んで、お気に入りのDVDを視てすごせる。
夜は飼い主さんと一緒にご飯を食べてあったかい巣で眠れて、飼い主さんが休みの日にはたくさん遊んでくれる。
幸せだった日々に戻れる、そう信じてセヤナーは薄汚れて傷だらけになっても家を探し続けたのだ。
そしてついにセヤナーは見つけた、家の外観は覚えていない、だけど毎日窓から見ていた公園や周りの建物は覚えている。
やっと家に帰ってこれたのだ。
セヤナーは公園からフェンスをくぐりいつも内側から覗いていた窓の元へと急ぐ。
もう日は沈み飼い主さんは帰っているはず、そうして記憶から自分のいた窓の元へとたどり着き明かりがついているのを見る。
過ごしやすい時期だからだろう、窓は網戸が閉められてるだけで鍵は開いている。
早く帰って飼い主さんに優しくしてもらおう、そんなことを考え窓までセヤナーはのそのそと、自分では全力のつもりで登って行った。


「ダヨネー、ナポリタンおいしい?」
「ヨネー♪ヨネー♪」
窓まで登って家の中を覗いたセヤナーの目に映ったのはセヤナーの理解できない光景だった。
飼い主さんは自分の皿からナポリタンを取り分けダヨネーに食べさせている、自分にはエビフライを尻尾もくれなかったのに。
「じゃあ食器片付けてくるからいい子で遊んでるんだよ」
「ヨネー」
そうして呆然としていると飼い主さんが台所に向かいいなくなりダヨネーはセヤナーのおもちゃ箱へと向かう。
「ヨネー ヨネー カブトムシー ヨネー」
そうして取り出したのはセヤナーのカブトムシ、あのお気に入りの大事なセヤナーのカブトムシのおもちゃだ。
セヤナーはそれを見て衝動的に動く、網戸をこじ開けて隙間から入りダヨネーに体当たりしてカブトムシを奪い取る。
「セヤナーノカブトムシー!セヤナーノー!セヤナーノー!」
「ヨネー!?イタイー!イタイー!ヨネー!ヨネー!」
セヤナーより一回り小さいダヨネーが泣き出す、しかしセヤナーはそれを見てもダヨネーにセヤナーノー!と言って威嚇するだけである。
そんな騒ぎにドタドタと飼い主が駆けつける。
「おい、何してるんだ!」
そう言いながらセヤナーからカブトムシを奪い去りダヨネーをかばう飼い主。
「ヤー!セヤナーノー!セヤナーノカブトムシー!」
一瞬「は?」といった顔をする飼い主を見てセヤナーはふと我に返り今度は帰ってきたという喜びが湧いてくる。
「カイヌシサンー タダイマー ヤデー!」
ピタリと飼い主は動きを止め、そしてじっとセヤナーを見つめる。
傷だらけで汚れた体、カーペットにはセヤナーの移動した後が微妙に黒ずんでいる、そしてなくなった髪飾り、髪飾りを失った個体はひどく寿命が短くなる。
飼い主はそっとセヤナーを持ち上げる。
「ヤー?」
そうして歩き始め、玄関から外に出て公園までくるとそっとセヤナーを下ろし、

「お前なんて知らない」
そう言って小走りで引き返していき窓を閉める音が聞こえた。
セヤナーは何を言われたのかすぐには理解できなかったが、それを理解し始めるとふるふると震えだし慌ててドアまで移動する。
そうして半年前とは逆にポスト口から中に入り郵便受けの箱を開けようとしたところで止まる。
箱が開かないのだ、セヤナーはカブトムシをこの箱に残して外へ出て行った、だから飼い主はダヨネーを飼うにあたってダヨネーでは開けられないようにしたのである。
ダヨネーにナポリタンを食べさせていたのもセヤナーのときの反省から改めてネットで調べ低頻度であればセヤナーやダヨネーに良いと知ったからであった。
その反省が帰ってきたセヤナーに使われることがないのは皮肉であるが。

「カイヌシサンー!ウチナー!セヤナー ヤデー!イレテー!オウチニ イレテー!セヤナーノオウチー!イレテー!」
開かない郵便受けの中でセヤナーが叫ぶ、必死になって、飼い主さんに思い出してもらおうとして叫ぶ。
そうしてしばらく叫んでいると蓋が開き再び持ち上げられて水槽にいれられる。
さらにそこへカブトムシのおもちゃを入れると外へ運び出し車に乗せられた。
セヤナーは訳が分からないながらもカブトムシを大事に持つ。
何も言わない飼い主と車に揺られて運ばれるセヤナー。
セヤナーはその光景に覚えがあり思い出す、あれは飼い主の元へ来てしばらくのことセヤナーは病気にかかった。
とてもしんどかったのを覚えている、元気のないセヤナーを慌てて水槽に入れて今のように車に乗せて病院に連れていかれた記憶。
そう思い出すときっと病院に連れて行って髪飾りを治してくれるんだと思った。
髪飾りを失ってからは本当に辛かった、何度も泣いて痛い目にあってまた泣いて、それを治してくれるんだと思ったらとても嬉しくなった。
途中で車を停めて飼い主さんが出ていき戻ってきたときに持っていた袋には新しいカブトムシのおもちゃとエビフライが入っていた、セヤナーはまた嬉しくなった。

そうしてしばらくするとまた車が停まる。今度はセヤナーの水槽を抱えて一緒に降りる。
そこは見たことのない広い河川敷、飼い主さんは水槽を抱えて車から離れて橋の下に降りていく。
そしてセヤナーをカブトムシのおもちゃと一緒に出しエビフライをそばに置く。
「エビフライー エビフライー」
セヤナーはお腹が空いていたのもあってすぐに食いついた。
「ウマイイイイイイイイイイイ!!」
美味しい、今まで食べた中で一番美味しいエビフライだ。
あっという間に2尾を食べきり、振り返り言う。
「カイヌシサンー アリガトナー」
そのお礼は誰にも届かなかった。
エンジン音がなりセヤナーが乗ってきた車が離れていく。
辺りを見回しても飼い主さんはいない。
再び呆然とするセヤナー。
なにもわからず呆然とするセヤナーの頭にかつての仲間のセヤナーの言葉が思い出される。
『カイヌシサンー セヤナー オイテニゲター』

「アッ...アッ...アッ...アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
理解してセヤナーは絶叫した。
なぜ叫んでいるのかわからないがせざるを得なかった。
どれくらい叫んだかはわからなくなり、いつの間にかぼーっとしていたセヤナーはカブトムシを大事に大事に抱えてのそのそと草むらの中に入っていった。

それからセヤナーはのそのそとカブトムシを大事に大事に抱えながらご飯を探し、死んだように植え込みの中や路地の中で眠る、そうして数日を過ごした。
普通の状態に見えないセヤナーは明らかに周りに避けられていたが、セヤナーのカブトムシに興味を示した野良セヤナー達がいた。
セヤナーは奪われまいと異常な気迫を見せたが体はボロボロで抵抗なんてできなかった。

カブトムシを奪われたセヤナーは一つの植え込みの中でずっとじっと動かずたまに思い出したように葉っぱを食べるようになる。そうして一ヶ月ほどをその植え込みの中で過ごした後げっそりとしたセヤナーがのそのそと外に出てくる。

「セヤナー...オウチニ...カエルー...」

今はもう大分寒くなってきていてこれから更に冷え込んでいく。