セヤナーを虐めたりいじめたりイジめたりしたい

野生のエビフライ。
人間が作ったそれと外見が似ているものの、その点以外は全く異なった未知の生物。
その生態はセヤナーを凌ぐほど謎が多く、セヤナーを超える多様性を持つとも言われている。
今回は、その野生エビフライの一種を解説していきたい。


これは、ある町外れの湖畔での出来事。
餌を求めていた一匹の野良セヤナーが、一羽のエビフライに気付く。
「ヤー! エビフライー!」
そのエビフライは身動き一つせず、ただ地面に横たわっていた。
捕食するなら今とばかりに、セヤナーは動き出す。
真っ直ぐ突っ込んでいき、まず一口。
すぐにお決まりの台詞が飛び出す。
「ウマイイイイイ! メッ……」
だが、それは急に途切れた。
直後、セヤナーに異変が起こる。
セヤナーの全身から、狐色の粗い胞子があふれ出してきたのだ。
その量は、セヤナー自身を覆い尽くすほどに限りがない。
「ヤッ…… ヤアアアアアア! イタイイイイイイイ!」
その変化には苦痛が伴うのか、体を激しく震わせ、悲鳴を上げる。
何故こうした現象が発生したか、それはセヤナー自身にも分からない。
「クルシイイイイイイイ! コワイイイイイイイ! ダレカアアアアアアア! タスケテエエエエエエエ!」
ゆえに混乱し、恐怖する。
やがて、事態は終息へと向かう。
「アッ……アッ……アア……ッ」
セヤナーの全身が完全に胞子状の何かへと変化し、震えと叫びが止まった。
全身は出来の悪い靴型から、一直線の棒型へ。

その姿は、まるで野生のエビフライと瓜二つ。

形状は先ほどセヤナーが口にしたものと酷似している。
そちらのエビフライは、セヤナーにかじられた部分が再生していた。
元の形に戻り、まるで何事もなかったかのように動かないままだ。
一方、元はセヤナーだったエビフライ型の何かは、少し前の苦しみ悶える姿が嘘だったように生き生きとしていた。
そのまま、悠々と空へ飛び立っていく。

先述のエビフライは、セヤナーに感染し、自身と同じエビフライに変化させるという特殊能力を持つ、感染型エビフライだったのだ。
セヤナーの味覚と習性を活かし、その個体数を増やすという独自の進化。
エビフライもまた、多様性の生物である証左と呼べるであろう。
セヤナーを感染対象に選んだ理由は、その繁殖力の高さもあるとの説が挙げられている。
事実、分裂型や有性生殖型の繁殖力は凄まじく、セヤナーが発見された2015年には、世界中でその姿が大多数確認されたという。
更に同年のセヤナーブームによりペット用に家畜化された飼いセヤナーが、ブーム後に捨てられて野良セヤナーとなって大量発生している。
エビフライは、これらの野生個体と野良個体に目を付け、感染を行なっている。
では、その能力はどれほどの効果を持っているのか。
次のケースを見ていただきたい。

ある草原での出来事。
「ヤッ ヤッ ヤー セッ セッ セー」
一匹の野生セヤナーが、呑気な様子で散歩をしていた。
そこへ一羽のエビフライが猛烈な勢いで飛びかかる。
その素早さもさることながら、不意を突かれたことで、セヤナーは何の対応もできなかった。
「ヤッ……! ナッ…… ナニー!?」
突然のエビフライに困惑するセヤナー。突進をまともに受けた衝撃で地面を転がり、全身に打撲や擦過傷を負った。
「イッ……! イタイイイイイ! ナンデー!?」
混乱がまだ収まらないところへ追撃が来る。
エビフライが全身を鞭のようにしならせつつ、のしかかってきたのだ。
「アアアアアアア! イタイイイイイ! ドウシテエエエエ!?」
状況を把握できないまま、セヤナーは起き上がれずにいた。
実はこのセヤナー、感染能力を持つ個体だったが、その効果は感染型エビフライには通用しない。
「ギャアアア! ギャアアアアアアア!」
感染型エビフライの能力は、セヤナーの全細胞や性質などを初期化、再構成するというプロセスを経るため、セヤナーの感染能力は発動せずに消去されてしまう。
「イタイイイイイ! イイイイタアアアイイイイ!」
また、セヤナーに先手を打たれて能力を使われたとしても、エビフライの感染能力はセヤナーに感染された部位ごと初期化し再構成を行なうため、感染セヤナーによる不意打ちなども無効化できる。
「クルシイイイ! クルシイイイイイ! クルシイイイイイイイ!」
感染能力の性能はエビフライの方が圧倒的に高く、セヤナーに逆転されることはまずあり得ない。
「イギャアアアアアアア! アアアアア……」
もちろん、今回のケースも例外ではない。
エビフライの奇襲により、感染セヤナーはエビフライへと変化する。
今後の生涯を、エビフライとして過ごすのだ。
感染能力を持つセヤナーの減少には、この感染型エビフライも一つの原因として挙げられている。

その繁殖の確実性や感染セヤナーへの対抗手段など、様々な強みを持つ感染型エビフライ。
だが、その感染自体が常にスムーズに行なえるとは限らない。
次のケースで説明していきたい。

「メガー イタイー ナンモー ミエンー……」
橋の下にある空き地で、野良の親セヤナーが、自分の子セヤナーの待つ巣を探している。
餌を探していたが、その途中で何故か両目に激痛が走り出したため、棲処へ戻って一時休憩しようとしていたのだ。
「オカーサーン!」
待ちかねて巣を飛び出した子セヤナーが、親セヤナーの後ろから駆け付けて来た。
「オチビー? オチビー ドコー?」
しかし、親セヤナーは真逆の方角に顔を向けている。
「ウシロー! ウシロ ムイテー!」
「ウシロー?」
ようやく子セヤナーの方を振り向く親セヤナー。
だが、様子がおかしい。
「ヤッ……!」

その両目は、エビフライになっていた。

「ヤアアアアアア! オカーサン! メガアアアアア!」
「オチビー? ドコー? ドコー?」
「ヤアアアアアア! コワイイイイイ! コワイイイイイイイ!」
「オチビー? ドウシター?」
このやりとりは、終わることなく延々と続いていく。

そう遠くない場所でも、一匹の野良セヤナーに異変が生じていた。
「……」
まるでエビフライを口に突っ込まれたかのように、口がエビフライに変化している。
変化は口内の周囲全体にまで及んでいるため、食べることも、消化器官に送り込むこともできない。
最早、苦痛に震えるしかない。
「ヤー? エビフライー クレンノー?」
そこに、他の野良個体がやって来る。
だが、口内を感染された野良は返事ができない。
身振りで意思表示しようにも、まるで伝わらない。
「ワカランー ケド モラウデー」
そう言って口にした直後、異変が起こる。
「アアアアア! ファアアアアア!」
もう一匹の口内もまた、エビフライに感染したのだ。
一羽のエビフライによって互いの口を繋がれてしまった二匹の野良セヤナー。
話すことも動くこともできず、ただ身をこわばらせていた。

こうした現象は、未成熟である子供の感染型エビフライによる能力発動時に起きる。
まだ成体になっていない子エビフライは、能力も発展途上の段階であり、上記の二ケースのような中途半端な感染状態を起こしやすい。
親セヤナーの両目になっていた二羽のエビフライも、二匹の口を塞いで繋げたエビフライも、子供のエビフライだったのだ。
そうした状態にある子エビフライは、感染しているセヤナーから養分を吸収しつつ、最終的に自分たちと同じ姿へと変えた上で分離する。
そして、成体のエビフライになるまで、自身の感染能力を発達させていくのだ。
その過程で複数に千切れた際、エビフライはそのままの状態で各々再生し、複数羽のエビフライに変化する。
ちなみに、まだ子供の状態であったとしても、感染セヤナーの感染能力に対する初期化と再構成の力は十分に持った状態である。
ただし、全身を自分たちと同じ姿に変えるにはとても時間がかかるため、感染セヤナーには相応の強さと長さの苦しみを与える。
「ア゙ー…… ア゙ー…… ア゙ー……」
ちょうど、こちらの資料のように。
感染能力を失うだけでなく、気が遠くなるほどの苦痛を与えられ、最早なす術もない。
また、野生セヤナーには、後述のような事態が起こり得る。

これは、群れをつくって広い洞窟の中で暮らす野生セヤナーたちに起きた出来事。
群れの保護者役である巨大個体が、周辺の見回りから帰ってきた。
だが、その表情は浮かない様子だ。
「ヤー…… カミカザリー…… イタイー……」
敏感な器官ゆえ、髪飾りに痛みがあるのは、セヤナーにとって多大なストレスである。
しかし、巣の中に入った途端、それを忘れてしまうほどのパニックが襲う。
「ヤッ! ナッ ナンヤー!?」
まるで、美味しそうな餌を見るような視線を、仲間たちから向けられている。
これは、何故?
そうした疑問の中、沈黙は破られる。

「エビフライー ウマソー」

仲間の一匹が、はっきりとそう言った。
他でもない、自身に向けて。
「ヤッ!? ナンデー!? ウチガ エビフライー!?」
何故か自分がエビフライ扱いされている。
巨大個体は混乱した。
仲間たちは、矢継ぎ早に言う。
「エビフライー」
「ウマソー ウマソー」
「デカイー エビフライー」
徐々に近付いてくる。
剥き出しの食欲を向けて。
「ヤアアアア! ヤメテー! ウチナー! セヤナー!」
その言葉は、しかし届かない。
何故なら、巨大個体の髪飾りは、エビフライと化しているのだから。
セヤナー同士の認識は、髪飾りによって行なわれる。
ゆえに、髪飾りにエビフライが感染しているセヤナーは、セヤナーではなくエビフライと誤認識されてしまうようだ。
群れの仲間たちが、一斉に飛びついてくる。
そして、その体をかじる。
「ウマイイイイイ!」
「メッチャ シアワセ」
「モットー モットー」
「モグモグ モグモグ」
一方、食われている巨大個体は全身の激痛に悶えていた。
「イッ! イッ! イタイ! イタイ! イタイイイイイイ!」
何故自分が食われる?
その疑問が解けることはない。
今度は、仲間たちが激痛で悶絶し始めたのだ。
「ヤッ! ヤッ! イ……イタイイイイイイ!」
「アッアッ…… アッアッ……」
「ギャアアアアアア! ギャアアアアアア!」
「ヒギヤアアアアアア!」
仲間たちの体が、狐色の衣のような何かに埋め尽くされ、元の形が分からないほど変貌していく。
その姿は、まさにエビフライ。
そして……。
「アッ…… アッアッ……… アアアアアッ……」
巨大個体の複数の傷にも変化があった。
仲間たちを変化させたそれと同じものが、体中の傷口からあふれ返ってくるのだ。
まるで、欠けてしまった部分を補うように。
「アッ アアッ……アアアアアアア! アアアアアアア! ヤアアアアアア!」
体が巨大な分、苦痛は長引く。
今この時、巨大個体は自分の巨大さを嘆くことになる。
「ヤアアアアアア! ユル……アアアアアアア! ユルシアアアアアアア!」
許しを乞おうとも、無意味。
激痛は、変化が終わるまで続くのだ。

このケースもまた、先述の例と似たようなことが言える。
熟練したエビフライであれば、巨大セヤナーですらもスムーズにエビフライに変えることができる。
しかし、そうでないエビフライが同じようなペースでこなすのは難しい。
傷つき、弱っている巨大個体でもなければ、感染に手間取ってしまう。
だからこそ、巨大セヤナーという大きな試練に挑み、己を鍛えようとする若いエビフライも少なからず存在するのだ。


ここまで大分長くなってしまったが、最後にこの種について注意すべき点を述べたい。
感染型エビフライは、セヤナー以外の生物の体表に付着、または体内に入ったとしても、感染能力を全く発揮せず、そのまま待機状態になる。
そして、その生物からセヤナーの体表及び体内に到達した時点で、感染を始めるのだ。
もしセヤナーを飼育しているならば、感染型エビフライへの十分な注意が必要となるだろう。
具体策として、ニュースなどで発表される最新の感染型エビフライ注意情報を見逃さないようにすることが一つとして挙げられる。
また、外出時に不審なエビフライを見つけても、決して近付かないことも対処法になる。
もしも飼いセヤナーが散歩中、それに近付こうとしても、絶対にやめさせることが必要だ。
拾い食いの癖があるなら、矯正を推奨する。
更に、帰宅時にはうがいと手洗いを欠かさないこと。
衣類や持ち物の付着物は、玄関先で払い落とすことも有効である。
セヤナーを飼育する上で、そうした衛生管理は必須であると言える。
もし怠れば、あなたの飼いセヤナーは……。


追記:
同様の繁殖能力を持つ生物として、感染型ナポリタンも発見されている。
こちらはダヨネーに感染し、自身と同じナポリタンに変化させる。
ただし、感染先であるダヨネーは、セヤナーよりも個体数が少なく、繁殖力も低いためか、該当種の発見例も多くない。
この種に関しては、今後の調査が待たれる。

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