セヤナーを虐めたりいじめたりイジめたりしたい

セヤナーの繁殖方法の一つに、感染というものがある。
だが現在、この方法をとる個体……否、この方法自体が廃れつつある。
では、何故そのようになったのか。
とある出来事を通して説明していこう。


2015年頃にセヤナーは知名度を増し、ブームの一つとなった。
当時、この新種の生物はまだ謎が多く、法整備も未発達の段階であったため、動物愛護団体はセヤナーの調査をすべく、接触を図った。
しかし、事件はそこで起こったのである。

某日、とある草原にて。
団体メンバーの一人が、野生のセヤナーに友好的な口調で話しかけた。
「ヤデー ヤデー」
対するセヤナーもこれといった敵意を見せない。
メンバーの一人が差し伸べた手に、セヤナーが触れる。
そのまま良好なファーストコンタクトになると誰もが思った、その時だった。

「ヤーデー」

セヤナーに、異変が起こったのだ。
まるで、激しい振動で震えるかのように、全身が波打つ。
更に、何故か触れているメンバーにも同様の現象が起きている。
二者の動きはだんだん激しくなり、輪郭すら分からない状態となった。
最早、元の形も分からないまでに変形していき、そして……。

「ヤー? ……ヤッ! ヤー!?」
触れていたメンバーが、セヤナーそのものとなっていた。

一瞬にして、他のメンバーの間に広がる動揺、不安、混乱。
当時の人々にとって、信じられない出来事が目の前で起こったのだ。
「ヤアアアア!? ナンデー!? ナンデー!?」
もちろん、セヤナーにされてしまった当の本人は、周囲以上に混乱し、恐怖した。
自分の体が、何故?
思考回路が大いに揺さぶられる。
当惑は、感情となってあふれ出す。
「コンナ…… コンナ…… ヤアアアアアア!」
幼子に戻ってしまったかのように、大いに泣き始める。
「ヤデー アンタモ セヤナー」
混乱を引き起こした原因であろう野生セヤナーは、至って伸び伸びとしていた。
まるで、これが当然のことのように。
「コレデ ウチラ ナカマー」
人間とセヤナーの間で、激しい温度差がある最中、再び変化があった。
他のメンバーが、野生セヤナーを捕獲用ネットで捕らえたのだ。
「ヤッ! ナ ナンデー?」
今度は野生セヤナーが混乱する番だ。
必死にもがくものの、逃れることはできない。
脱走する隙間のないケージに閉じ込められた野生セヤナーに、最早なす術はない。
一方、セヤナーにされてしまったメンバーは、別のケージで保護された。
多少落ち着きはしたものの、まだ己の身に起きた事態への恐怖は大きかった。
「モトニ モドリタイー…… モドリタイー……」
切なる思いが、自然とこぼれ出す。
その目の涙は、まだ乾かない。

こうした事件は、これだけではなかった。
人間のみならず、保護対象とされている動物や天然記念物に指定されている動物までもが、同じようにセヤナーにされているという報告が各地で上がったのだ。
セヤナーを保護指定しようとする動きは、ここでストップした。
世論は保護から生態の研究と解明に重きを置くべきという方向へ、一気に傾く。
こうして、各地で感染行動を行なうセヤナーが、次々と捕獲されていった。
捕獲された個体が向かう先は、専用に設立された、国中に遍在する複数の研究機関。
そこでセヤナーに対して、あらゆる生態調査と実験が行なわれた。
研究の中には、体の構造を知るための解剖実験もあった。

研究機関、解剖実験室にて。
固定されたセヤナーが乗った解剖台の周りを、対感染能力用防護服に身を包む解剖医たちが取り囲む。
「アアアアアアア! ヤアアアアアア!」
当時はまだ、セヤナーの研究が進んでおらず、セヤナー用の麻酔も当然存在しない。
「ギャアアアアアアア!」
ゆえに実験内容は、セヤナーに想像を絶するほどの苦痛を与えるものとなった。
「ギ ギャ イ゙ギヤ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」
解剖刀は、まるで貝類の肉を包丁で捌くように、容易くセヤナーの腹足を真っ二つに切り裂いた。
粘液と表皮に包まれてた内臓があらわになる。

次々と、取り出す。
「ア゙ッ」
体を動かす物であろう筋繊維、無数本。
「ヤ゙ッア゙ッ」
消化器官と思わしき、熱を帯びた袋。
「ア゙ア゙ア゙ッ」
風船のように、膨萎する呼吸器。
「ア゙……」
その鼓動の音と動きで、一際目立つ心臓。
「……」
そして、思考と精神の棲処、脳。

セヤナーが苦しみ、喘ぎ、そして息絶える声を聞き流しながら、解剖医は淡々と言う。
「感染能力を司る器官は……これかな?」
他の腹足類には見られない臓器が、姿を現す。

こうしたセヤナーの解剖は、国中で幾度も繰り返された。
それは、単に複数の実験結果を集めるためだけでなく、セヤナーが環境に適応して変化する、多様性の生物であることが研究で分かったからだ。
多様であるからこそ、相応の数の実験をする。
それはすなわち、比例する数のセヤナーを実験体にして、その命を消費することを意味する。
全ての実験は、人類の明日のために。
全てのセヤナーの命は、他生物たちが生きる環境のために。
全ては、地球の未来のために。
そんな大義名分が、常に飛び交っていた。
だが、全ての人間がそうした大義の下に動いているわけではない。

親しい人や尊敬する人、大切な人が、セヤナーに変えられた。
その怒りをセヤナーに向ける者もいる。

元の自然環境や人間の居住区、商業区が混乱に陥る。
そうなってしまえば、社会の経済や地球上の貴重な財産はどうなる?
その恐怖をセヤナーに示す者もいる。

他者を塗り潰して同族に変える感染能力はもちろんのこと、周囲に強引な手段を使ってでも、欲しいものや場所を横取りしようとする我儘なところもまた、忌避すべき性質である。
その嫌悪感をセヤナーにぶつける者もいる。

他生物に感染し、自分たちと同じ種に変える?
ならば、その構造を知りたい。
切開し、解剖し、分解し、その仕組みを隅々まで解き明かしたい。
その知識欲をセヤナーに突き立てる者もいる。

人間の多様性は、セヤナーのそれを遥かに凌ぐとも言われている。
能力や知識もさることながら、そのパーソナリティもまた、多彩。
その多様性が、セヤナーに牙を向けばどうなるか?
今回のプロジェクトが、それを世に知らしめた。
また、セヤナーの悲鳴が研究室に響き渡る。

「ヤアアアアアア! ヤアアアアアア! アッ……アアアアアアア!」
「イタイイイイイ! イタイ! イタイ! イタイイタイイタイイタイイタイイタイイイイイイイ!」
「オ゙オ゙オ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ ア゙ッ ア゙ッ」
「ヤメテエエエエ! ヤメッ……ヤ……アアアアアアア! アアアアアアア!」
「グ……グ ル゙ ジ イ゙……」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙! ユ゙ル゙ジデエ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙! ユ゙ル゙ジデエ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙!」
「ダズゲデエ゙ ダズゲデエ゙ ヴォオ゙オ゙ア゙……ア゙……ア゙ア゙……」
「ヤ゙……ヤ゙……ヤ゙……ヤ゙……」

そして、最後は決まって、こう言う。

「 モ ウ コ ロ シ テ 」

数えようとするだけで、気の遠くなりそうなほどのセヤナーが、このプロジェクトに命を捧げることとなった。
実験体には、感染能力を持たないセヤナーや、セヤナーのつがいであったダヨネーも含まれていた。
これらの犠牲で解明したメカニズムは、感染能力を司る器官があり、能力発揮の際にこれを使う個体の他、体表に能力を持つ細胞を張り巡らせている個体など、やはり多様性に満ちていた。
それらの多様性は、今後人間たち他生物に貢献していくだろう。
否、貢献せざるを得ないと述べる方が正しいか。
しかし、失われる命あれば、救われる命もある。
今回のプロジェクトを経て、いくつかの新しい発見があった。

一つは、感染能力に対する抗体『感染能力抗体』。
元々は野生生物などがセヤナーを捕食し続けることで所有する自然的な抗体。
それを人工的に開発することができるようになった。
これは、ある実験室での一場面である。
「ヤッ!? アオイー ウチラニ ナランー ドウシテー ドウシテー」
「オネーチャン? ナニ イッテルノ?」
感染能力を持つセヤナーが、目の前のダヨネーをセヤナーに変えようとしたが、全くそうならない。
それも当然。
ダヨネーの体に組み込まれた感染能力抗体は、言わば感染能力の天敵である。
しかも、あらゆる種類の感染能力に対応すべく、日々実験と改良がなされている。
抗体の前では、感染能力など無に等しい。
「今回の実験、成功。ダヨネーは経過観察のため、飼育室へ戻しましょう。セヤナーは……捌きましょう」
指示の通り、ダヨネーは実験室の外へと運ばれていく。
セヤナーは近くにあった台の上に固定された。
「ヤッ! ナッ ナンヤー?」
その答えはすぐに示される。
防護服の研究者たちが握る解剖刀は、セヤナーをまるで刺身のように切り分け、解体していく。
「ビャアアアアア! アアアアアアア! ヤッ ヤメ……! アアアアアアア! ドウ……シテー……」
処理は、そう時間をかけずに終わった。

また、セヤナーにされた人間などの他生物を元に戻す細胞『15-Tofu細胞』の開発にも、このプロジェクトが一役買っている。
医療や生物の分野に属する団体、企業の協力要請があり、そこで実験体を提供したのだ。
「あれ……? 体が……戻った」
この人物は、先述の事件でセヤナーにされてしまった動物愛護団体のメンバー。
周囲には、泣き笑いする両親に迎えられ、思わず笑顔になる子供や、友人に囲まれ、歓声をあげる青年といった、喜びを見せる人々の姿があった。
「こちらの治療は成功しました」
PHSでそう連絡する医師。

同時刻、野生生物が生息する自然公園にて。
「こちらも成功です」
通話機でそう話すのは、一人の獣医。
この場所では、セヤナーにされた動物たちが元の姿に戻り、揚々と自然に帰っていく姿があった。
セヤナーが増えすぎた環境も、これで元のバランスを取り戻すであろう。

同日、研究所にて。
「ア゙ッ……ア゙ッ……ア゙ッ……」
15-Tofu細胞の効力は、元からセヤナーであった個体には致死の猛毒であったようだ。
海水にさらされた砂の城のごとく、全身が緩やかに溶けていく。
残されたのは、先ほどまでセヤナーだった液体。
ただし、これが元のセヤナーに戻ることはない。
命として終わった存在が、生き返ることなどあり得ないのだから。
「これも、一つの成功かな」
経過を観察していた研究者は、そう呟く。


冒頭でも述べた通り、感染セヤナーは滅びゆく存在、あるいはすでに滅んだかも知れない存在である。
結果的に、プロジェクトは実験体を全て消費する内容となった。
中でも感染個体は最早絶滅するほどの勢いで使い潰されていき、ただの研究資料、あるいは動かない廃品と化していったのだ。
ただ、セヤナーは多様性の生物。
再び同じような脅威、もしくはそれ以上の脅威を持つ可能性がないとも言い切れない。
しかし、人間を含めた他生物もまた、セヤナーを超える多様性を秘めている。
もし何らかの脅威が迫る時、その多様性が解放されるかも知れない。
あるいは、すでに……。

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