セヤナーを虐めたりいじめたりイジめたりしたい

一軒家の庭の片隅から、微かな鳴き声が一つ聞こえる。
「ヤアアアア…… クサイー…… イキグルシー……」
およそ10cmほどのセヤナーが、コンポスト容器の底で弱々しく呻いていた。
このセヤナーは、帰宅途中であった家主の手荷物へ密かに張り付き、玄関から侵入しようとしたところを、セヤナーが悶絶するほど苦手な香りを放つ忌避剤、セヤコナイに阻まれ、敢え無くご用となった野良個体だ。
脱走しようにも、天辺の蓋はロックがかかっており、セヤナーの力ではどうにもならない。
壁面にも、セヤツルリというセヤナーの粘液を撥く忌避剤が施され、登ることを頑なに拒む。
例え外に出たとしても、家主が栽培するレモンの強い香りといった目に見える脅威や、庭の土に混ざる粉末状セヤコロリ等、セヤナーには感知できない危険によって、今以上に苦しむことになる。
よって、この場所に留まるしかない。
更に、ここで摂取できる餌は、独特の臭いを放つ腐敗した生ゴミだけ。
だが、それを口に含めばどうなるか。
「マズイー…… メッチャ…… スッパイー……」
表情は苦痛に歪み、顔色は白ばむ。
肉体は生きていても、心は痩せこけていく。
人の縄張りに上がり込み、食物や棲処を奪おうとした末路が、これだ。
コンポスト容器の中で生ゴミを消化し、分泌される老廃物で肥料をつくる仕組みに組み込まれてしまった。
「ナンデー…… ドウシテー……」
己の過ちに気付けなかったからこそ、この状況がある。
そして、そこへ追い打ちだ。
容器の蓋が開き、そこから中の様子を覗くものがいる。
この家で飼われているミニブタ。
野良や野生のセヤナーへの悪戯を好むという性格の持ち主だ。
「ヤ……ヤー?」
そのことを知らないセヤナーは、不思議そうな顔をする。
一体、何をするか?
答えはすぐに出された。
ミニブタは容器の縁に座り込み、尻をセヤナーに向ける。

直後、新鮮な激臭の元が殺到する。

「ヒイッ! ヤアア……」
叫びは即座に封殺された。
ミニブタは満足気に蓋を閉める。

セヤナーが人間のテリトリーに無断で侵入すれば、上記のような扱いを受ける。
それはセヤナーや他生物が、自身の縄張りを主張し守ろうとする行為と似ている。
自分たちの住む場所を荒らされたくない。
自分の所有物を盗られたくない。
そうした感情は、当然人間にもあるのだ。
次のケースも、根本は同じである。

住宅街の路地を一本抜けた所にある大通り。
この場所で、ある問題が浮上した。
セヤナーの自殺。
精神や肉体が限界以上に傷ついても尚生存している……否、生存してしまった個体が取る最後の手段。
行なう場が自然環境であれば取り沙汰されることはないが、人里であれば話は別。
セヤナーが潰れた際の肉片や体液によって服飾や手荷物などが汚れるといった問題が出てくる。
それを解決するべく、電機分野の研究開発者に依頼が寄せられた。
それはメカセヤナーを用いて、セヤナーが人里で自殺することの阻止だ。
この依頼には、ある一つの提案が付け加えられていた。
開発者たちは考えた。
我々への挑戦状か、あるいは大きな期待か、それともまた別の思惑か。
いずれにしても、これは名を上げる機会。
断る理由はない。
提案に応える機能を搭載したメカセヤナーが、件の大通りに派遣された。
早速、その一台が標的を発見する。
「オチビー…… オチビー…… オチビー……」
この個体は、かつて十匹の子セヤナーを生んだ元親の野生セヤナー。
だが、その繁殖は無計画なものだったため、結果的に子セヤナーを全て事故死させてしまった。
その無力感と絶望から、生きる気力を失っている。
「オチビタチー…… ウチモー…… イクデー……」
元親個体が見つめるのは、大通りの車道。
どうやら走行中の車両に巻き込まれての轢死を望んでいるらしい。
ここが、メカセヤナーの活躍の時だ。
車両が来る前に、元親個体に肉薄する。
そして、口となる部位が展開。
同時に、複数のワイヤーが元親個体を絡めとる。
「ヤー? ヤッ! アア……」
元親個体が気付いた時には、その体はわずかに浮かび、瞬く間にメカセヤナーの内部に収納される。
ここから、次の機能が動き出す。
収納したセヤナーに電極を刺し、電池として活用するのだ。
もちろん、セヤナーの抵抗など無意味。
体の自由を奪われ、エネルギー源として消耗されていく状態では、触手一つ動かすこともできない。
また、メカセヤナー自体も頑丈につくられており、セヤナーの力では傷一つ付けることも不可能だ。
別の場所でも、他のメカセヤナーが依頼をこなしている。
「イギャギャギャギャギャヤアアアアアア!」
こちらは口部に取り付けられた自動粉砕機で、セヤナーを小さい残骸にして収集、内部でそれを分解しエネルギーに変える機種だ。
また別の場所でも、他のメカセヤナーが稼働中だ。
「ヤッ! アッ…… アアア……」
こちらの機種は、細かい機動としなやかな伸びが特徴の触手部位がセヤナーを捕らえ、内蔵された注射器から脱水型セヤコロリを打ち込み、乾燥させて駆除しつつ吸収する。
まさに電機と薬剤両方の技術が活かされた機体だ。
「いいねー。自殺阻止の『依頼』と電池として活用する『提案』を同時に達成。君とコンビでつくっただけはあるよ。そう思うでしょ?」
ビルの展望台から双眼鏡で一連の様子を眺めているのは、某企業の社員。
この人物は、企業における電機の研究開発者であり、触手部位の精密な動き等を編み出した当人だ。
「こっちは既存の薬剤を提供しただけだよ。大した貢献になっていないだろう」
返答するのは、同企業に所属する薬剤の研究開発者。
そばにいる電機開発者とは、新型リード等の開発でよく一緒のチームに選ばれるという奇縁がある。
「そう謙遜しなくても。電機と薬剤、普段なら競り合うジャンル同士が手を取り合う。これって、なかなかロマンがあるんじゃない?」
「さて……。君とはよくチームを組んでいるから、特に何も感じないねぇ」
意見にもノリにも乗らず、ただスマートフォンでメールを確認する相方に、電機開発者は肩をすくめる。
「やれやれ。仕事なら全力で体を張るのに、そうじゃなきゃ我関せずだなぁ……」
二人が雑談している間も、メカセヤナーたちは円滑に仕事をこなす。
依頼は成功である。

人里に侵入し、人間に害をもたらす野生個体と野良個体。
これらを逆に利用するという発想は他にもある。
とあるネット配信番組でも、そうした活動が紹介されている。
「今回の特集は、セヤナーを利用した荒地の活性化です。皆さん、よろしくお願いします」
挨拶するのは、番組の顔たるキャスターと同番組でもお馴染みの専門家、そして某企業の調査員であるハンサムなマッチョだ。
三人がいるのは、土が干からび、草が一本も生えていない荒地。
砂塵混じりの風が吹き、岩壁が剥き出しになった高台だけが佇む、物寂しい風景。
「早速ですが、こうした環境を緑豊かな土地へ変えるために、どのような方法を取るのでしょうか?」
キャスターの問いに、調査員は何故か筋肉を強調するポーズをとりながら答える。
「ずばり、セヤナーを栄養分として撒くんです」
三人から離れた場所で、数十台のトラックのコンテナから、大量のセヤナーがばら撒かれている。
「ヤアアアアアア……」
「アッ アッ アアアア……ア゙ッ!」
「アアアアア! オチルウウウ! オチッ……!」
地面に落ちるセヤナーの中には、落下の衝撃で砕ける個体や、他の個体に挟まれて押し潰される個体もいた。
「あの、もうすでに潰れている個体がいるんですが、それは……」
ポーズを変え、至って冷静に調査員は言う。
「問題ありません。いずれにせよ、セヤナーは荒地に撒くことになるので、むしろ好都合ですよ」
至る所で湿った粉砕音が聞こえてくる。
乾燥し切って色を失った地面に、潤いとピンクの色合いが施されていく。
「なるほど……。栄養を内包しているセヤナーを肥料として使うことが、このプロジェクトの根幹ですね」
一連の光景を観察していた専門家が、ここで口を開く。
「その通り。今輸送している大量のセヤナーも、今回のために回収したものです」
堰を切ったように流れていくセヤナーは、次々と荒れた大地に染み込んでいく。
落下時の衝撃に耐えられた個体も、絶え間なく流し込まれるセヤナーの波に飲まれ、押し潰されていった。
「御社では、野良個体や人里に侵入した野生個体の捕獲や、買い切れなくなった飼い個体の回収といった活動をされていたと記憶しています。今回も、それらの個体の活用をしておられるんですか?」
「そうですね。今回のプロジェクトには、最近回収した内の大半を使用します」
セヤナーを流し終えたトラックが、順番に荒地を去っていく。
「ヤ……ヤー……」
「ココ ドコー……?」
「フラフラー…… クラクラー……」
わずかに生き残ったセヤナーを地面に擦り込むべく、今度はロードローラーがやって来た。
「ヤー……? ヤアアアアアア!」
「アッ……! アッ……! アッ……!」
「ヤー…… ヤー…… ヤー……」
驚愕したまま固まる個体、傷ついた体を引きずりながら逃げる個体、落下のダメージが残っているためにまだ目を回している個体。
それら全てが、残らず轢き潰されていった。
「おー。擦り込まれてる、擦り込まれてる」
キャスターはその様子に思わず感嘆する。
「ええ。栄養は残らず、キャッチします」
新たなマッスルポーズをとりながら、調査員は言う。
専門家はふと、一つの疑問を投げかけた。
「ところで……何故様々なマッスルポーズを?」
「……少し、緊張していて。番組に出る機会は余りないものでして……」
「ああ……」
これが調査員なりの緊張をほぐす方法のようだ。

あらゆる方法、様々な場所で活用されるセヤナーたち。
次は、とある地域の祭りにおける活用法を紹介しよう。
「モ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙! マ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」
「それっ……大人しくしろって……大人しくしろってぃ……」
コーティング型セヤコロリを擦り込まれて悶絶するセヤナーと、それを押さえつけながら擦り込み続ける挑戦者。
これは新競技、コーティング擦れ擦レース。
セヤコロリコーティングを擦り込めるだけ擦り込み、一番擦り込める挑戦者を決める競技である。
一見、良く分からない内容ではあるが、シンプルでセヤナーの悲鳴を間近で聞けることから、一部の層に人気のある競技だ。
「ヤメメメメメメ! ヤメメメメメ……メ゙ッ!」
「エッ! エ゙ッ! エッ! エ゙ッ! エ゙エ゙エ゙……エッ゙!」
「ギュッ! ギュッ! ギュッ! ギュッ! ギュッ! ギュッ! ギュッ!」
参加者は老若男女様々、海外からの観光客も参加している。
コーティング剤を塗られたセヤナーは徐々に干からびていき、最終的には粉末状に砕けてしまうため、どれだけ手際よく擦り込めるかが勝負の分かれ目だ。
「モ゙オ゙オ゙……オ゙ッ……オ゙オ゙ッ……」
「メ゙ッ! メ゙ッ! メ゙ッ! ヤ゙メ゙メ゙メ゙メ゙……」
「エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙…… エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙……」
粉状になって散っていくセヤナーたちが続々と。
「ギュウウウウウウ……ヴオ゙オ゙オ゙オ゙……」
最後に残った挑戦者は、ほどよく日焼けした、サングラスの人物だ。
たくましく発達した両腕を上げ、勝利のポーズを見せる。
別の競技も負けないほどの賑わいを見せていた。
「ンンンンンンン! ンンンンンンン! ンオオオオオオ! ンアアアアアア!」
「アッー! アッー! ンアッー! オアッー!」
「ブォッ! ブォッ! ブボボッ! ブボボォッ!」
肛門がある個体にどれだけ空気をねじ込めるかを競う、肛門空気入レース。
こちらも小学生や一部の男性層、マニアックな層が集まり、独特な盛り上がり方をしている。
「ンンンンンン……ンオアーッ!」
「アアアアアア……ア゙ッー!」
「ブボボボボボ……ボオオオオオン!」
膨張したセヤナーたちが、一斉に破裂。
こちらは、参加者全員がドローだった。
そして、祭りの中で最も熱狂的な競技がある。
セギャンドバッグヒッター。
専用に設けられた広大なグラウンド上で、大きさ約一メートル半のセヤナーを、どれほど吹き飛ばせるかを競う種目である。
力自慢から知能派、丸太使いまで、幅広い層の参加者が列挙する中、一際卓抜した人物がいた。
その人物は、地元PR員。
鋭く息を吐き、獣のような躍動と鞭のようなしなりでセヤナーを打った。

衝撃と轟音が、周囲一帯を包む。

叫ぶ間もなく、セヤナーだったものはグラウンドの端へと消し飛んでいく。
緩衝材となる空白のグラウンドや川がなければ、どれほどの余波が広がっただろう。
「……ま、そこそこだな」
当人は感慨もなく言うが、周りからすれば驚くべき記録だ。
観衆たちが唖然とする中、冷静な視線が二つ。
「……相変わらず、鮮やかですね」
「そうやねぇ。ええもん見せてくれるわ、あの子」
以前PR員が率いる『仕事』に参加した駆除業者と、その上司。
「あの方が優勝でしょう。あれに並ぶ記録は出せるようなものではない」
静かながらも良く通る声で断定する業者。
だが、上司の意見は違った。
「そうとも限らんよ。なんせ、今回はウチも出場する」
普段の陽気で友好的な雰囲気をまとっているが、今はその内に只者ならぬ気配を感じさせる。
「……お好きになさって下さい」
こうと決めたら、徹底してぶれない。
それがこの上司だ。
どのみち、エントリーは済んでいるだろう。
思った通り、上司のことを呼ぶアナウンスが響く。
「おう、やったるわ!」
得物の刀……に似た警棒を振るい、気合十分の様子。
その気迫に圧倒され、動けないセヤナーに、渾身の一打。

周囲一帯が、灼光の一閃で照らされる。

セヤナーだったものは塵一つ残らず消滅し、クレーターと焦げ跡が、ご丁寧に記録を示していた。
PR員と全くの互角。
「おもしれぇ……」
「やろー? こっからが本当のお楽しみや」
二人の強者が、楽しげに対峙する。
観衆たちは戦々恐々となり、二人を良く知る業者は溜め息がちに呆れ果てる。
祭りはまだまだ終わらなそうだ。

セ虐師、研究者、駆除業者……。
セヤナー、そしてセ虐に関わる者たちの日常は、これからも続く。

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